※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。
ゆうべはR氏宅にお世話になり、いよいよ迎えた土曜日。バンディット・オーナーズクラブ「Bands!」(バンズ)の全国オフ大会へ向けて出発である。
津久井の道志川ぞいにR413を西に走る。お天気もそこそこ良く、R氏が先行で早いペースで道程をこなすが、途中からやや道も細く、傾斜やカーブも厳しくて、荷物満載の私はたちまち離され気味になっていく。
(関東:P34/C-4から西へ)
後ろから見ていても、R氏の走りはまったく危なげがない。このあたりを走り慣れているという事もあるだろうが、長身の背中をリーンアウト気味にしならせ、カーブの向こう側に吸い込まれるように消えていく。まるでバイクとダンスしているかのような一体感すら感じてしまう。
彼は「ツアラー」の通り名を冠されるほどBands!きっての長距離ライダーとして知られている。おそらく全国各地のBands!メンバーとも一番多く顔を会わせているのではないか。愛車は最小モデルの250ccだが、わずか数日の休みを利してここ神奈川から九州の最西端まで、高速道路でフラリと往復してしまうほどで、その走りには誰もが一目置く存在だ。ウェアにダークカラー系を好む事から黒い彗星などと呼ぶ人もいる、じつにクールな2枚目である。
途中道の駅で小休止ののち、山中湖北岸を抜けて集合場所のパーキングへ。時間にはまだ早いが、すでに何台か到着していた。
初めてお会いする顔も多く、ロングツーリング途中のキタナイ格好の私ではあるが、日頃からBands!ホームページの掲示板管理係として幾度か名前を出していたので「ああ、あのkanetaさんですね」といった感じで、割とすんなり受け入れてもらっているようだ。
(関東:P33/D-6:郷土館)
予定の時間までにはまだ間があるので、福島の山中で湿ったままになっていたテント類を駐車場に広げて天日干し。使い込んだ安物テントですぐ水が滲みるが、そのかわり乾くのもがぜん早い。フックを適当にフェンスに引っかけてしばらく置いていると、その間にも続々メンバー達が到着してくる。東京GPS横断でお世話になったHg氏、関西キャンプでご一緒した面々も大挙して自走してこられた。
賑やかになってきたところで、今夜の宿である「やまなみ」に移動。観光のファミリーカーもずいぶん増えてきたので、道路のはしを一列になってゆっくり走る。その数30台近くはあろうか。これだけの台数で走るのは旅に出てから初めての事、ちょっとした緊張と喜びにほくそ笑みながら、大荷物のバランスをとりつつ先頭車両に続く。日頃は気楽に行動出来るソロや小グループが多く、大人数で行動するのはちょっと苦手な私だが、1人での長旅が続けば、たまにはこういうのもいいなと思えるから不思議だ。
受付と部屋割りを済ませ、畳敷きの広間にようやっと腰を落ち着けるが、その間にも実行委員の方は手際よくイベント等の案内をしてくれている。Bands!の全国オフが開催されるのはこれで2度目だが、至れり尽くせりといった風で、参加するだけの身としてはじつにいい心持ちで、のんびりとしていられる。
Bands!は基本的にインターネット上での集まりだから、ほとんどの人がいつも顔を会わさない状態でコミュニケーションをやっているわけで、これだけの人数が集まると多少の嗜好の違いから”合う・合わない”の軋轢が起きやすくなるものだが、スタッフはその辺も先刻承知のようで、メンバーごとの部屋割りにも配慮が見え隠れしているようだった(当日の運営スタッフのみなさん、本当にご苦労様でした)。
さて、この時点でまだボスは到着していない。仙台に立ち寄った時はお会い出来なくて残念だったが、いざもうすぐ対面となると少々緊張する。
まだ夕食前なのに私の持参した麦焼酎をさっそく飲っているのは、牛久でも一緒に飲んだT4氏。泊まりがけならではの気楽さだ。私もついいっしょになって湯飲みを傾ける。このあとT4氏には個人的に高級ブランデーやブーツカバーなど戴いてしまったので、こんな2千円たらずの麦焼酎ではちょっと安かったかもしれない。
記念撮影を済ませ、都合で日帰り参加となったメンバーもそろそろと家路につく。上の写真にあるプロアームつき400LtdのSZ氏も残念ながら日帰り組。今回ぜひ語り合いたい方の1人だったのだが、またの機会を期して、手を振る。
そんなこんなで各人盛り上がりつつ夕食を済ませ、あとは一気に宴会体制へなだれ込んでいく事になる
とっぷり暗くなってから「ボスが来ました〜」の声が響き、みな我先に玄関ホールへ走る。大型ワゴンで高速を数時間もひた走り、ようやく到着したボスとご主人。芸能人の記者会見のようなストロボの嵐なか、第一声はボスから発せられた。
『あなた、kanetaさんでしょ!』
との言葉にたじろぐ私。どうやら私の風貌を掲示板やメール等でいちいち伝えてくれていたメンバーがいたらしい。もうしばらく遅れてこんどは札幌でお世話になったK氏がレンタカーにて到着。移動距離からすれば私についで遠方からの参加となる。ふたたびみんなしてストロボの嵐を浴びせかける。
K氏はもっと早くに到着する予定だったのだが、高速の分岐を間違えて中央道を北上してしまったらしい。おかげで甲府名物のブドウのご相伴にあずかる事が出来たのは望外の幸せか。その後メンバー各個に提供した景品つきビンゴ大会で宴も最高潮に達し、みな夜が更けるまで酒を酌み交わし、語らった。
私がこのBands!に関わるようになったきっかけは、まさにいまの愛車、90年式Bandit250にある。知り合いに5万円で譲って貰った時点でのこいつは、バイク屋からも「こんなの5千円でも買わないよ」とのお墨付きを戴くほどのオンボロさ。赤黒く錆びついたチェーンがギリギリと軋み、押して歩くのさえ困難なシロモノだった。
当時の私といえば原付モンキーのオイル交換くらいしか経験がなく、錆だらけの中型バイクはあまりに手強い相手。しかも職を失った矢先でバイクに回す余分な金などない。仕方なく毎日バイク屋に入り浸り、バイトをしながら自力での修復に明け暮れ、先の見えない仕上がりに苛つく日々。
そんなとき、やはり当時まだ始めたばかりのインターネットで情報を収集する事を思い立ち、藁をもすがる思いで検索エンジンやメール友達のコネを駆使してあちこち探し回るが、バイクメンテ一般に関する事ならいざ知らず、旧型Bandit250の修理・調整に関する詳細なデータなんて何処にもない。そんな中で行き当たったのが、当時ボスが個人で開いていたホームページ。
結局ネット上では所望の情報はほとんど得られなかったが、いつしか同じBandit乗り同士の輪が出来、ついにはオーナーズクラブの発足に至る。つまり私が今日ここで皆と楽しい酒宴を繰り広げていられるのも、わがBanditが出来の悪い不動車だったからこその賜物なのである。もしこいつが素性確かな優良中古車で、しかもホンダCBみたいに故障の少ない優等生だったら、私はここには来ていなかっただろう。それどころか北上ツーリングなんて企てをする事もなかったかもしれない。
縁とは面白いもので、錆びだらけの不動Banditが、どれほどの人々との出会いを導いてくれたかしれない。
ボスならびにメンバーのみんな、そして我が愛車には本当に感謝しているのである。