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北上ツーリング 2001年8月31日-9月21日

※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。

R1東進編 2001年9月2日

出立

朝の黄和田

目覚めたのは午前5時半、さあ、今日からが旅の本番だ!

静けさの中、テントに寝そべって地図を取りだし、これからの道筋をイメージする。ここからだと下道でも1日かければ関東圏に達する事が出来るが、せっかくのひとり旅。自分のペースでのんびりと走りたい。この山を東に越えたら名古屋は目の前、とりあえずそこまで行ってから、また考えよう。

朝食を終えてテントの撤収。他のみんなはそれぞれ大阪や京都の自宅まで帰るわけだが、私はひとり北を目指す。ちょっとした優越感と不安感の入り交じった妙な気分だ。峠を越えた市街地までは名古屋市が地元のCさん夫妻のワゴン車で先導してもらう事にし、近くのGSで本州初の給油をしてから出発。

みんな、また日本のどこかで会おう!


東へ!

狭くて急勾配なR421を東に進み、石榑(いしふ?)峠を越えて三重県に入る。

(中部・北陸:P29/A-3)

峠近くには大型車の進入防止のためかコンクリの柱が5ナンバー車の幅ぎりぎりいっぱいに作ってあった。今回の北上行ではこういうのを林道や河川敷の入り口でよく見かけたが、これほど強制的に防止策をとっている例は、少なくとも鹿児島では見た事がない。車の台数が多い分、ルールを守らないドライバーもそれだけ多いという事だろうか。

途中、路肩に停まっているたくさんの観光客の車をよけながら走るが、通り過ぎる人々の笑顔になんとなく違和感を感じてしまう。今日は日曜でお天気も良いし、週末の行楽には絶好だ。のんびりと過ごす家族連れの人々、そしていま先導してくれているCさん夫妻や、夕べまで焚き火を囲んで話し込んでいたみんなと私の今の立場はあまりにも違う・・。

彼らには明日の月曜から普段どおりの日常生活が待っているわけだが、私は北を目指してただ1人、えんえん走りつづけるのだ。言ってみれば、非日常な世界の入り口に立っている事になる。いままで私は、いかにもロングツーリングの途中らしい荷物を満載した県外ナンバーのバイクを見かけるたび、

『いいなぁ、いつかオレもあんなふうに遠くへ、自由に旅に出てみたいなぁ・・』

などと漠然と思っていたわけだが、あのときとまったく逆の立場に、今なっているのではないか! 宮崎から出航したときには抱けなかった長旅への緊張感や期待感が、ようやく沸々とみなぎってくるのを感じる。この長くくねった石ころの多い下り坂が、これからの旅の助走路であるような気分に、ちょっとだけなった。

峠を下りきると、広々とした平野が続き、いよいよ桑名をはじめ名古屋近傍の都市部に入ってくる。複雑だが広くて流れのよい道路を先導に従って走り、揖斐・長良川と木曽川を越える。

名古屋市街地の広い広い道路に出たところで、朝から先導していただいたCさん夫妻とお別れ。またの再会を約し、お二人の見送りを受けながら、いよいよ交通量の増してきたR23をひとり、東へ走りだす・・

まるで高速道路

時刻はそろそろお昼だが、まだ腹は減ってこない。国道とはいえインターチェンジつきの快適道路をぐんぐん走る。今日は日曜のはずだが、交通量はこんなものなのだろうか、思いのほか流れがよい。昨年の夏に初めて関西圏を走ったとき、名阪国道のあまりの流れの速さに面食らった覚えがあるが、あれに近いものがある。

蒲郡に入ったところで2度目の給油と、軽い食事。流れの良い海岸線を流すのは気持ちがいい。海風に吹かれながらヨットハーバーや人工の砂浜などを眺めていると、今夜はこういう海辺で野営するのも悪くないなと思う。

しかしあんまり調子に乗って走っていたせいか、ついうっかり有料の橋に気付かず進入してしまった。

(中部・北陸:P15/E-1「豊川橋」)

自動2輪は普通車と同じで2百円とられてしまう。たかが2百円というなかれ、限りある路銀生活者としては、ついうっかりで発生した支出は、財布よりもココロに響く。ほんの1キロ上流にまわれば無料の橋があったのに!

自分のミスではあるが、そもそも私の愛用するタンクバッグはなぜか走行中に地図が見られない造りになっているのだ。ふつうロードバイク用のタンクバッグはライダーのすぐ目の下に位置するから、上面が透明な地図入れになっていて、乗ったままでルート確認が出来るようになっているのがほとんど。私のは上段のチャックを開けてフタを持ち上げると内側に透明ポケットがあって、ここに地図を入れるようになっている。つまり設計者の意向としては「地図が見たけりゃバイクを停めてゆっくり見ろ」という事だろう。

これを買ったのは2輪免許取りたての頃だったし、走りながら地図を見られる便利さなど全く考えていなかった気がする。もっとも道を見失ったら路肩にバイクを停めて地図を眺めるか、そのへんを歩いているオバチャンに尋ねればいいし、走りっぱなしよりもいろんなエピソードが生まれやすいものだ。

その名も、R1。

豊橋の市街地の中心部、巨大な交差点を抜けるといよいよ東海道、国道1号線に入っていく。じつはこの道、ツーリング雑誌などではあまりいい事を書いてない。車が多く排気ガスだらけで旅の情緒を求めるには不向きというわけだ。だが今回は、ここを走るのを夕べからちょっと楽しみにしていた。

そんなに旅向きでないと言うなら、どれほど向いていないか走って確かめてみるのも悪くないと思ったのだ。避けて通るのはそれからでも遅くない。

豊橋市内は車も多く、そんなに流れは良くなかったが、海岸沿いに高架を走るあたりは爽快の一語。海が目の前に迫り、まるで空中を飛んでいるかのよう。途中の浜名バイパスでまた2百円払い(ここは事前にチェックしていたのでダメージはない)、これまた太平洋の波しぶきがかかりそうなくらいの海岸沿いをひた走る。

(中部・北陸:P16/C-4「浜名バイパス」)

浜松付近ではオートバイの工場群が見えてくる。いま跨っているBandit250も、ここで産声をあげたのかもしれない。紆余曲折あって不動車として落ちぶれ、数年前まで草ヤブの中に錆だらけで蹲っていたコイツをどうにかこうにか修復して路上に復帰させ、ついに今回は里帰りまで果たした事になるわけだ。

どうだ、うれしいか、Banditよ! それともせっかく眠りにつこうとしていたところをたたき起こされて迷惑だったろうか。たしかに寒い朝はいつもエンジンの寝起きが悪く不機嫌なのだが。

大井川に達する

大井川

「箱根八里は馬でも越すが 越すに越されぬ大井川」と昔の人は詠ったが、なるほどこうして目の前にしてみると、この川幅はなかなかのものだ。9月に入ったばかりで水量も少ない時期なのだろう、広大な河川敷が目を引く。これなら日本中のツーリングライダーが全員押しかけてテントを張ったって余るかもしれない。

R1を離れて、大井川沿いに上流へと遡ってみる。対岸にはSLで有名な大井川鉄道があるが、はたして今でもSLは走っているのだろうか。煙を吐いて疾走する勇姿をちょっと期待したが、結局出会う事はなかった。

時刻はそろそろ夕方、薄暗くなってくる頃合いだ。途中のコンビニで今夜の食料を買い込み、テントを張るのに良さそうな場所がないか探して走る。と、変電所みたいなところの横にキャンプ場らしき看板があるのが見えた。Bandit250を停めて事務所を訪ねると、中にはおばさんが1人だけ。今夜の幕営を申し出ると、こころよく受けてくれた。本来は係の方のハンコか何かが要るそうだが、すでに帰宅していた。鹿児島から北海道を目指して旅している途中だと話すと、目を丸くして驚き、「事故のないようにね」と心配してくださった。

(中部・北陸:P25/G-4「かわぐちキャンプ場」)

大井川の支流、伊久美川のせせらぎを間近に聴きながら、今夜の寝場所を設営する。いちおう芝生のつもりなのだろうが、地面はかなり荒れている。しかしトイレと水場が近くにあるのはありがたい。

食事を終えてひと息つくと、携帯にメールが入っているのに気付いた。昨夜別れたみんなから、励ましのメッセージが届いている。気ままな1人旅ではあるけど、こうして仲間との絆がなくなっていない事を確認出来るのは、ちょっと気分がいい。携帯なぞ持って旅すると、せっかくの孤独感が失われるかも・・と思う事もあったのだが、今はただ、みんなの暖かいメッセージが心地よい。

シートがぱらぱらと音を立て、夜半からすこし小雨が落ちてきた。缶ビールをちびちびと舐めながら、川のせせらぎに癒されつつ、いつのまにか目蓋が重くなってくる・・

さて、明日はどこまで行こうか。


野営地のスケッチ ランタンの灯り
本日の走行
263km トータル586km
ガソリン
790円(永源寺・162km/7.9L)
592円(蒲郡・136km/5.7L)
有料道路
600円(豊川橋200円、浜名バイパス200円、磐田バイパス200円)
食費など
960円
宿泊
0円
合計
2,942円