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北上ツーリング 2001年8月31日-9月21日

※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。

再び花巻編 2001年9月12日

台風一過の休日

枝葉の散乱する戸外

目が覚めたのは夜明け間近。水場に顔を洗いに重いドアを押して外に出る。だいぶ落ち着きを取り戻した戸外の空気はなまあたたかく、アカマツの匂いがむわっとたちこめていた。空はまだ暗い雲に覆われているが、ゆうべの強風もすっかりおさまり、地面には葉や小枝が散乱している。

Bandit250はバンガローのかげに停めておいたので、強風で転倒する事もなく無事だった。というよりも昨晩の雨風の勢いは私のイメージする台風の基準に照らしても、かなり低いレベルだったように思う。直撃に近いコースだったというのにだ。台風は暖かい海上にあってエネルギーを蓄積するものだが、関東付近に上陸して雨風をまき散らしながら陸地にそって北上コースを辿るうちに勢力も弱まっていたのだろう。同時に速力もグンと増して、とっくに太平洋上に出てしまっている。

さすがにテントでは不安だったと思うが、あわてて避難行動をとるほどの規模でもなかったなというのが正直なところだ。ひと抱えもある大木をヘシ折り、バイクを車庫ごと吹き飛ばすような猛威を目の当たりにしている鹿児島人にしてみれば、名ばかりの台風に肩すかしを食わされた感じの一夜だった。

蛾

べつに台風のせいにするわけではないが、肩すかしついでに今夜はここでもう1泊し、移動せずゆっくりする事に決めた。ちょうど旅も札幌で折り返したところで、「走らない休日」が欲しくなったのだ。Bandit250の点検も札幌以来やっていないし、花巻市内の見物がてら、のんびり過ごすとしよう。

さっそく手持ちの工具でリアブレーキをバラしてみる。じつは札幌入りする頃からちょっと擦過音が出ていたのだ。表から見た限りではブレーキパッドも残り少ないながらまだ使えるようだし、何か小石でもはさまっているのだろうと思っていたのだが・・

ブレーキパッド

なんと2枚あるパッドのうち裏側のみが限界以上に摩耗しきって、ベースの金属部分まで削れてしまっていた。異音の原因はこれだったのだ。これはもう新品に交換するしかないだろう。Bandit250のリアブレーキパッドは表側はいいが、裏側はタイヤの幅が邪魔をしてギリギリ直接目視出来ない位置にある。しかしいままでこんな片減りは経験してなかったので、この旅では表のみのチェックで済ませていたのが裏目に出た。ピストンの突出量が表と裏でズレが出ていたわけで、今はとにかくパッド交換が先だが、鹿児島に帰ったらオーバーホールしなくてはならないだろう。

その他の部分はまだ大丈夫のようだ。あえて言うならチェーンがやや弛み気味だが、これはいつでも張り直せる。とりあえずバイク屋を探して新品のリアブレーキパッドを確保しなくては。


よみがえる悪夢

盛岡・南大橋

キャンプ場から岩手県最大の都市・盛岡市内まではほんの15分程度、パーツもすぐに見つかるだろうとタカをくくっていたのだが、バイク屋はともかく、パーツの在庫が見つからない。全国規模チェーンで有名なRB支店に行っても在庫ナシ。注文すれば数日後に入荷するらしいが、生憎そんなには待っていられない。

それならと電話帳をかたっぱしから当たってみたが、どの店も同様だった。そもそもバイク屋自体がかなり少ない気がする。冬のほとんどを雪の中で過ごす土地柄だからだろうか?

頼みの全国チェーンNK部品も福島県の郡山市と宮城県の仙台市にあるのみ。これ以北ではなんと札幌まで戻らなくてはならない。一番近い仙台支店に電話し、在庫があるのをようやく確認。明日一番で買いに行くから誰にも売らずにキープしておいてと頼み置き、怪訝な反応の店員にコトの成り行きを説明するのも面倒なので、そのまま電話を置いた。やれやれ、これでひと安心・・。

盛岡市街から南に下るには、交通量の多いR4よりは裏道的なR396〜R456の方が狭い割には流れもいいのでオススメだ。間近に流れる北上川の水の匂いを感じながら、快適に走る事が出来る。前に来た時は実にいい天気で、川も静かにのんびりと流れていたが、さすがに昨夜の台風で水量も増し、茶色く濁った水が音をたてて流れ下っている。

あとで例のイギリス海岸に行ってみようか・・宮澤賢治関連の本には静かな北上川の写真しか掲載されてないが、せっかくだから時ならず増水して荒れる川面もぜひカメラにおさめておきたい。

増水している北上川

バンガローに向けて走行中、携帯からメール着信音が鳴ったので、道路脇の空き地にBandit250を停めてタンクバッグをひらく。と、空き地の向こう側、道路からは陰になって見えないところに白と黒のクルマ。

『ネズミ(レーダー取り締まり)だ・・!』

前には長テーブルが出してあり、スピード違反の取り締まりをやっているらしい。またしてもこんなところで・・。

私もついさっきまで制限速度を越えて走っていたかもしれないが、さいわい反対車線だったのか御用になる事はなかった。しかし、いやなものを見たなぁという印象。そこから遠ざかって走る間にも、何日か前に仙台の山中で捕まった事が生々しく思い出され、スピードも抑え気味にならざるをえない。


新装備

石鳥谷のバンガローに戻って昼飯をすませ、花巻市内に向かう。携行品はタンクバッグとカメラのみ。施錠出来るバンガロー住まいのありがたさを感じる。

花巻は2回目とあって、国道の間の細い道にもかなり詳しくなっている自分が何だか嬉しい。平日で客も少ない駐車場にBandit250を置いて、この前は立ち寄れなかった宮澤賢治イーハトーブ館から、向かいにある童話村へとゆっくり歩いて散策する。

(東北:P68/C-2)

この日のイーハトーブ館では賢治研究の草分けとして知られる草野心平関連の展示があったが、それより展示室のすみっこに置いてあったスーパーファミコンのRPG「イーハトーヴォ物語」にちょっとハマってしまった。う〜ん、これもう売ってないのかな?(※注12-1)

童話村の入り口

童話村は道路に面した広大な駐車場もあり、「銀河鉄道の夜」に登場する駅を模した派手っぱしい表門の造りがちょっと観光地的でイヤミかなと思ったけど、なかなかどうして、敷地内の静かな林の中でリラックスする事が出来た。林の中には童話の世界をモチーフにしたユニークなオブジェもいろいろしつらえてあり、退屈しない(もちろん賢治の童話世界にある程度通じているのが条件だが)。

別料金で入る「賢治の学校」と称するホールの中は電飾やビデオ映像がピカピカと輝いて、ちょっと飾りすぎるきらいがあるが、巨大なぬいぐるみでいっぱいの部屋とかもあり、子供たちにはウケが良いようだ。

でんしんばしらの軍隊

ホールを出て、続く経路にある木造ロッジ風の「賢治先生の教室」は素朴な手作り感覚がよく出ていて、こっちの方が私好み。野鳥や星座などテーマごとに棟が別れていて、心地よい木の香りの中で楽しい時を過ごせた。ただ窓を閉めきった室内ではなぜか空調が効いておらず、厚い雲間からときおり陽が射し始めた事もあって、汗ばんだライダージャケットの身にはちょっと辛かった。

童話村を後にイギリス海岸に向かう途中、国道沿いのカー用品店に立ち寄り、ちょっと買い物を済ませる。

はたして川岸の濁流はかなりの水位まで上がってきており、もうすこしで河川敷のコスモス畑を押し流してしまったろう。この北上川は川岸ぞいにずっと川面近くまで立木が生えており、堤防工事で開かれた場所以外では、木陰にいろんな生き物を見る事が出来る。

写真をひとしきり撮り終え、川面まで階段を下りてはみたが、さすがにゴウゴウと流れ下る水に恐怖を感じで引き上げた。時刻はすでに午後4時すぎ、夕食の買い出しをしてからバンガローに戻るとしよう。

その前にさきほどカー用品店で買った”レーダ探知機”の箱をあけてみる。ファンデーションのコンパクトほどの大きさで、太陽電池式なので電源も不要。今の私にとって安い買い物ではなかったが、さきほどの取り締まりを目にして、猛烈に沸き出してきた自衛意識の産物だ。スピード違反を推奨するわけではもちろんないが、とりあえずこれがあれば幹線を外れた抜け道の物陰で獲物をじっと待ち伏せる、あのイヤらしいスピードガンの”被害”に遭う確率はぐっと減る。何より精神的にも楽になれるし、九州まで帰る頃にはきっと元もとれているに違いない。

増水したイギリス海岸

別に買った強力マジックテープを色鉛筆ケースの上に貼り付け、タンクバッグの上面ポケットに挟み込む。これを台座としてレーダ探知機の足を固定する方法。これなら運転中の胸元に位置するので警告アラームが聴きとりやすい。

バンガローに着いた頃にはかなり明るくなってきた夕空だが、山手の雲は濃く張りついたまま。明日の天気も期待出来そうにないが、とりあえず約束通り午前10時の開店までに仙台市のNK部品まで行かねばならない。

旅を始めて以来、今日は特別な目的のない「ゆるい」1日だったが、これで気が休まったかというと、そうでもなかったように思う。やはり目的あってのツーリング、お気に入りの土地を気ままに散策するのもたまにはいいが、どうも私は走り続けていないと気が抜けてしまうタイプのようだ。

夕食を終え、ずっと床に散らかし放題だった荷物を明日にそなえてまとめにかかる。ふと気付くと、今日持って回ったカメラのレンズ鏡胴に、イギリス海岸の細かい川泥がベッタリと付いていた。またいつか賢治に逢いに、ここに来よう。ピントリングのローレットに泥をこすりつけ、タンクバッグの防水シートを新しくし、カメラを大事にしまい込んだ。

雨具もテントもすっかり乾き、新兵器のレーダも装備完了。出発は遅くとも午前6時くらいになるだろう・・

さあ、また明日から頑張って走るゾ!


※注12-1
スーパーファミコンソフト「イーハトーヴォ物語」。株式会社ヘクトより1993年に発売された。
スーパーファミコンソフトのイーハトーヴォ物語

2010年11月25日追記 この旅を終えてから8年後の2009年10月、ようやく中古ショップにて「イーハトーヴォ物語」を入手。RPGと銘打ってあるが構成はシンプルで、その気になれば1日でクリア可能なレベル。しかしながら全9編のエピソードは賢治作品の中からよく練って選ばれており、宮沢賢治ファンのココロに響く演出がすばらしい。BGMもこの当時のゲームソフトとしては出色の出来で、後年サントラ盤が独自に発売されたほど。


本日の走行
153km トータル3,099km
ガソリン
970円(花巻矢沢・167.2km/8.8L)
入館料
350円(宮澤賢治イーハトーブ館)
300円(宮澤賢治童話村・賢治の学校)
レーダ探知機
14,973円
食費など
805円
宿泊
2,000円
合計
19,398円