※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。
花巻市の朝日大橋を午前7時に越えて、R283からR4に進入、市役所のスピーカから流れるチャイム「精神歌」に送られながら、一路仙台を目指して南下を始める。
(東北:P68/B-2)
天気も思ったより回復基調だ。せっかく乾いた雨具だし、今日はなるべくお世話になりたくない。そろそろラッシュの始まる時間帯だが、思いのほかスピードのノリもよく、ぐんぐん距離を稼ぐ。
やっぱり早朝ランは気持ちがいいものだ。札幌あたりからついぞ出ていなかった鼻歌も自然に出てくる。音楽ならジャズ・フュージョン系が好みでカーコンポでもよくかけるが、バイクを運転している時の鼻歌にはあまり適さない。複雑な16分音符系よりも気楽に唄える流行歌がベストで、あまり大きな声では言えない(唄えない)がモー娘やタンポポあたりをメットの奥でフンフンフ〜ンとやる位が心地よい。
途中、源義経の終焉の地である平泉の駅でトイレ休憩、通学する生徒の交通整理にあたっているおじさんと世間話をしたのち、一気にR4で仙台市まで入っていく。
(東北:P57/B-1)
しかしこのR4仙台バイパス、道幅も広いが流れも速い。鹿児島宮崎あたりの高速道路よりよっぽど路面の質もよく、ペースを維持するのがきつい。電話で聞いておいたNK部品の場所へは「6丁目」という交差点を曲がるはずだったが、おかげで行き過ぎてしまい、妙な裏道をぬって走る羽目となった。
「6丁目」の交差点から海側に進み、高架の下を通って「大きな橋」を越え、右に曲がってしばらく行った先にNK部品はある・・らしい。途中、道の左側にはBandit仲間には有名なショップ「CK」を見つけたが、まだ時刻は午前9時すぎで店内には誰も見えない。急ぐあまり、ちょっと張り切りすぎたようだ・・。
まだ開発中といった感じの港湾地区をゆっくり進むと、左手に大きなNK部品の看板を発見。かなり大規模な店舗で、頼もしい印象がある。
(東北:P39/G-3)
午前10時まで隣のコンビニで時間をつぶし、開店と同時にさっそく買い出し。件のブレーキパッドのほか、夜間走行でやや暗さを感じていたヘッドライトバルブも高効率のものを購入。その他メットシールド用の撥水剤など買い込み、貯まりに貯まったメンバーズカードで大半の支払いを済ませた。こんな事もあろうかと、今まで使わないでおいてよかったと思う。
港の空き地でさっそくブレーキパッドとバルブを交換し、ようやくひと心地ついた。さて、これからどっちに向かおうか・・。
給油したのち、県道10号ぞいに海岸近くを走ってみる。通勤ラッシュもおさまり、ほどほどの流れの抜け道といった感じだ。”スピード取り締まり区間・注意”などと看板が立っているが、今や探知機を装備したBandit250、『早く取り締まりの現場に遭遇してアラームが鳴らないかな〜』などと思ったりする。
路線沿いに県境を越え、福島県に。マップルを見ると、相馬市の海岸ぞいに徳富蘇峰ゆかりの温泉があるので、ちょっと寄ってみよう。この人は熊本・阿蘇山の名所、大観峰の名付け親でもあるのだ。
(東北:P30/H-5)
しかし海岸沿いの道は思ったより入りくんでいて、なかなか海岸線につけない。こういう状況でGPSを持ち出すのも野暮な気がするので、道ゆくおばさんに温泉のありかを訪ねつつ着いた温泉宿は、やはりさっきの地図とは違う温泉宿。しかし海のそばで眺めも良さそうだし、ここでゆっくりするとしよう。
宿の名は晴風荘といい、600円で入湯のみでもOK。熱めのカルシウム泉は私好みの湯温で、海岸を見渡せる露天風呂をほぼ貸し切り状態でゆっくりと満喫出来た。しかもちゃんとコインロッカーの百円玉も返ってくる! これはなかなか気分がいい。
私が温泉の善し悪しを判断する基準は、温度や雰囲気もさる事ながら”コインロッカーの小銭が返ってくるか否か”が相当のウエイトを占めている。キーを閉じた瞬間、足元の小金箱にコインがガシャンと落っこちる音は、ああもう返ってこないんだ・・という、何か寂しくココロに響く音なのだ。昨今の不況続きではあるが、やっぱり温泉たるもの、純然と入湯料でがんばってほしい。
温泉を出るともう午後2時すぎ、そろそろ今夜の宿が気になりだす時間帯。
海岸線を走っていると当節流行りのオートキャンプ場があちこちに見えるが、料金表を見ても千円を下っているところはない。家族連れならまだしも、単独の持ち込みテントでこの値段は高価にずぎる。砂浜もここいらは4輪が出入りしやすくなっているようで、一面に散乱した花火カスとか見ていても、あまりのんびり出来そうな感じがしない。
山手の方にでもいいところはないかなとマップルをめくると、川内(かわうち)村というのが近くにある。私の家は鹿児島県の川内(せんだい)市で、読みは違うが同じ名前。何となく気になる・・。
よし、今夜はここに宿を張ろう。山の上にはキャンプ場もあるようだし、帰ってから話のネタにもなろう。遅めの昼食のパンをかじりきり、さっそく山側に進路をとる。
海岸線の富岡町からクネクネ曲がる県道36号を通り、川内村に入る。まさに山上の村といった風情で、携帯の電波もほとんど入らない。
(東北:P20/D-4,5)
私の地元の川内市は海に近い半解放の盆地平野で、山岳地のこちらとはずいぶん雰囲気が違うが、”川内中学校”とか”上川内郵便局”など、読みは違うけど馴染みのある看板が並び、なかなか面白い。道ばたのおばちゃんも鹿児島ナンバーに感心してはいるようだが、同じ川内から来たとはよもや思うまい・・
役場をすぎると右手に酒屋さんがあり、この向かいの道を左に入っていくと山上のキャンプ場があるらしい。酒屋のおかみさんに『いまの時期、テントじゃ山の上は寒いよ〜』と言われるが、いえいえ慣れてますからと言い置き、缶ビールを2つ買って店を出た。じっさいそんなに気にはしていなかったが、このときGPSをもし作動させていれば、この店先がすでに標高600m近い高地にある事に気付いていただろう・・。
山へと続く細い道だが、民家もそこそこあって寂しい感じはしない。しかし途中いくつかの分岐路がややこしい。明日の出発にそなえてGPSに経路記憶させておこうと、分岐路に別れる地点で初めてスイッチを入れた。
道はずんずん傾斜を増し、やや雲のかかった山頂へと向かう。舗装自体は奇麗なものだし、林道の道案内の看板も充実している。登山のベースとしてもよく使われているらしく、飲み水も出るだろうとの事。ちょっと冷え込んで来たので早いとこキャンプ場に着いてゆっくりしよう。
しかしそのうち濃い霧・・というか雲の中に入ってしまったようで、ゆっくりとしか進めない。今日替えたばかりの高効率バルブだが、この濃密さにはお手上げ。路肩を確認しつつゆっくりと登り進む。
と、いきなり舗装の色が変わって茶色いブロック状の駐車場みたいなところに出た。向こう側には広場と建家、そして炊事棟とおぼしき屋根。どうやらここがキャンプ場らしい。しかしあたりは白く濃い雲が流れては消え、一種幻想的な雰囲気を醸し出している。
(東北:P20/B-4「高塚高原キャンプ場」)
さっそく広場のわきにテントを張り、水を汲みに行くが、これがすごい。普通キャンプ場の水場といえば水道の蛇口がいくつか並んでいるだけだが、ここはかわりに太い塩ビパイプが並んで、そこから清冽な水が滝のように吹きだし、静かな山あいにその音が響き渡っている。山の湧き水なんだろうが、いかに台風のあとで水が余計にあるといっても、こんなにガンガン出しっぱなしでいいんだろうか。といっても止めるノブ自体が付いてないから、もしかしたらここではシーズン中ずっとこうなのかもしれない。
とにかく水の心配がなくなったのは嬉しい。いつもの米炊きにかかり、スーパーで買ってきたスパゲティなどゆがいて今夜のディナーとする。おばちゃんにもらったゆで卵も入れて色彩もばっちり、山水で冷やしたビールがじつにうまい!
この山頂なら携帯電波もどうにか入るようなので、自分のHPにしつらえてあるモバイル掲示板に今夜の宿の事を書き込んでおく。
ところでここはどれくらいの標高だろう?さっきのご飯がわずかに固めだったから、かなり高いかもしれない。GPSの画面を切り替えてみるとなんと標高1,005mと出た。間違いなく今回の旅で最高所の幕営である。
すでに午後6時をまわり、周囲は急速に闇に包まれつつある。白い霧がすーっと降りてきては吹き流され、青く沈んだ山の輪郭が見え隠れしている。
2本目のビールをあけながらそんな風景をぼんやりと眺めているうち、だんだん体がシュラフとマットに馴染んでくる。地面のわずかな傾斜に身を預けながら、遠くごぅごぅと響いている水の音を聞いていると、昨夜のような完全装備のロッジもいいが、やはり幕営はいいものだなと思う。
さて、明日は金曜日。週末の山中湖オフめざして、再び関東入りである。