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北上ツーリング 2001年8月31日-9月21日

※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。

トーキョー砂漠編 2001年9月4日

首都突入

東京と神奈川の境界碑

朝靄のなかの津久井湖畔を発ち、R20で八王子方面に向かう。途中にある有名な大垂水峠にはかつての「東京府」という呼び名が刻まれた碑が鎮められている。これより日本の首都・東京に入るのだが、まだこのあたりは鬱蒼とした森に包まれ、昨日の雨のせいか空気も重くなっている感じだ。

(関東甲信越:P34/E-2)

峠の坂を下りきり八王子の市街地に入ると、とたんに交通量が増えだす。今日はちょっと出立が遅れ、すでに午前9時をまわっている。

さて、これからどういうルートをとるべきか・・朝が遅かったわりには、今日のルートはまだイメージ出来ていない。実は今夜の宿はすでに決まっていたりするのだが、そこまでの距離は1日かけて走るほどではない筈。要するに時間つぶしが必要なのだ。昨日までは幹線道路を疾走していた身にはちょっとつらい・・。

八王子のすこし先の多摩プラザという駅の近くで休憩していたら、携帯が鳴った。今夜会う予定でいるHg氏からのメールだ。そこでちょっとしたアイデアを思いついた。


GPSラリー

ハンディGPS

ツーリングにGPSを持っていくようになったのは、この旅の半年くらい前から。それまでこういうものがあるのは知っていたが、最近流行のカーナビのように、自分の走る道すじを機械まかせにしてしまうイメージがあって、あまり興味を持てなかったのだ。しかしユーザの方々の話をいろいろ聞いているうち、使い方によっては面白い旅の道具となる事がわかってきた。

GPSとカーナビは”似て非なるモノ”という形容がぴったり。具体的に言うと、こいつには道案内が出来ない。場合によっては可能だが、それは過去に通った事のあるルートのデータを逆再生させるにすぎない。

現在の位置や移動速度はわかるが、カーナビのように詳細なマップやデータ処理能力を持っていないから、初めての市街地で自在に走り回るなんてマネは出来ないのだ。

そのかわり手のひらに乗るほど小型軽量でどこでも持ち運べるから、たとえばハイキングや林道ツーリングなどで威力を発揮してくれる。もし道に迷っても来た道をちゃんと記憶しているから、最悪の場合でもまた出発点や元のルートに戻れるのだ。実際にこのハンディGPSを頼りに、遭難者が自力で山中から生還した例もいくつかあるという。記憶したデータを自宅に持ち帰ってパソコンで処理すれば、その日立ち寄った地点や時系列にそった詳細なルートマップを作成する事も可能。ソフトウェアもいろいろ揃っており、ホームページのコンテンツ作成にも一役買えそうだ。

さらに目的地の経緯座標をキー入力する事により、現在位置からそこまでの方向と直線距離を知る事が出来る。もちろん実際の道路は曲がりくねっているから指示された方向どおりに突き進むのは不可能だが、方向と距離は常に正確に出ているわけで、これを頼りにまったく未知の目標にたどり着くのも決して不可能ではないわけだ。

さいわいHg氏もGPSユーザの1人。さっそく彼の自宅の座標と、今夜の約束の場所である茨城県牛久市の座標を教えてもらい、私のBandit250に取り付けてあるGPSに入力した。そして今日1日、ツーリングマップルはいっさい開かない事に決めた!

GPSの指し示す方向と距離だけを頼りに、この大都会をサハラ砂漠に見立てた「東京横断ラリー」のスタートである。


渋滞渋滞渋滞・・

渋滞にはまっている最中

お昼に多摩の駅前をスタート。

(関東甲信越:P35/B-2)

第1目標のHgさん宅は北東方向に44.6kmと出た。これを頼りに、ディスプレイの矢印の方向にBandit250を向けて走る。信号待ちで停まるたびに方向と距離を確認しつつ、進行方向に対してだいたい45度の角度の中に矢印が収まるように、道を選んで進む。

10数年前までは神奈川に住んでいて東京にもよく遊びに来ていたが、さすがにこのあたりの細かい土地勘はない。環状8号のラインくらいはうっすらと憶えているが、そもそも今どこを走っているか、道路案内の看板を見てもまったく見当がつかない。まさしくこれは、砂漠の道なき道を旅するラリーレイドに似ている・・。

環状8号をほぼ北に向かい杉並から練馬へ入るが、車が多くまったく先へ進めない。地元のバイクはハンドルが擦れそうなくらいのすき間を縫って、次々に車列の間を走り抜けていく。荷物満載状態の私にあのマネは出来そうにないが、このままトラックの後ろに付いて濃厚な排ガスを呼吸していたのでは、いくら時間が余っていても、こんどは体が持ちそうにない。しかもなぜか立体交差のトンネル部分になると車速がぐっと落ちてしまい、閉鎖空間の中でさらに濃い排ガスが充満してくる。

意を決して、車線と車線の間にBandit250を割り込ませ、一本橋を渡る気分でソロソロと車の列を抜かしていく。最初はかなり度胸が要ったが、延々と繰り返しているうちになんとなくすり抜けの呼吸というか、緩急をつけた走り方が身についてきた。

しかし平日の昼間でこれなのだから、通勤ラッシュ時にはどうなる事だろう。これだけの大渋滞は、GW中の阿蘇のやまなみハイウェイあたりでしかお目にかかった事はない・・。

右往左往

さいたま市方向へ左に分岐する大きな交差点の手前で、矢印は左前方を指した。目標まで25km・・このまま直進してもいいが、ここでちょっと左に転進してみよう。何より道幅も広くて流れもよさそうだし、運がよければグッと距離を稼げるはずだ。左に曲がり、荒川にかかる大きな橋を渡って埼玉県側に入った。

(関東甲信越:P44/F-3)

巨大な高架の下、広々とした道をいいペースで走っていると、いかにも都会的な気分にひたれる。しかし高架の鋼材が衛星からの電波を遮るのか、GPSが自位置を見失いかけている。ここは平行した通常の道に出て、位置確認をした方がいいかもしれない。大きめの交差点で右に折れ、しばらく進むとGPSは復活した。しかも矢印は正面方向をほとんどまっすぐ指している!このままま進めば、かなりの所まで近づけるはずだ。スーパーやコンビニの林立する市街地を縫うように進み、矢印の方向へ。

と、なぜか浦和駅の真正面に出てしまった。これは直進するわけにはいかない・・駅施設をコの字に迂回して向こう側へ出て、ふたたび市街地をジグザグに進む。そのうち矢印方向と一致する道筋がふたたびあらわれた。もちろん迷いなく進入していくが、しかし道の突き当たりにあったのはなんと、広大な競馬場の正門ではないか!


あとちょっと!

現場到着

直線距離で残りわずか10数km、しかしなかなか残りの距離が減っていかない。市道を進めば川に邪魔され、矢印に向かえば線路に阻まれるの繰り返しだ。高速道路の高架をくぐったあたりで、残り5kmあまり。いいところまでは行くのだが、障害物を迂回して回るたび、矢印は大きく向きを変えてくる。

多摩の駅前からここまで来るのになんと3時間近くかかっている。直線距離で40km進むのに、こんなに手間取るとは。ある程度予想していたとはいえ、体が少々バテ気味だ。排気ガスを長時間吸ったのが堪えているのだろう。近くの公園らしき所にBandit250を停め、しばしベンチに横になってひと休み。これまでの間にもHg氏からはメールが何本か届いていた。こちらの現在位置を告げると、「かなり近いです」とのお答え。さあもう少しだ、頑張って行こう

とは言うものの、残り1kmあたりから全然進まなくなる。あたりは閑静な住宅街だが、小さな川や電車の線路がすぐそばを走っており、なかなか思うようには進めない。もはや矢印に沿うと言うより、おおむねの距離を目測して「あの団地あたりかな」と目星をつけて、グルッと先回りする感覚になる。

確かに距離は僅かずつ縮まってはくるが、あと700mあたりでだんだん混乱してきた。ハッとあたりを見まわすと、先刻と同じ家並み・・同じ場所を行ったり来たりしている。大荷物を積んだ鹿児島ナンバーのキタナイバイクが住宅地をウロウロしている様は、ハタから見たらどう思われているだろうか?


現場写真

しかしようやく苦労が報われ、距離表示がゼロになる瞬間がやってきた。GPSが指したのは、道路わきの塀の内側あたり。ここで目標まで数m、ついに到着だ!

Hg氏は今日はまだ勤務中なので、ご自宅には不在のはず。いちおう家の前に置いてある車の種類と色を教えてもらっていたが、どうも周囲の家にそんな車は見あたらない・・。

もっともこのGPS自体ある程度の測定誤差をもっているので、とりあえずは確認のため周囲の写真を撮り、あとでHg氏に見て貰おう。ここで合っていれば嬉しさもひとしおなのだが・・(※注5-1)


駅まで30秒

ひたちのうしく駅前の空き地

今夜の待ち合わせ場所である、常磐線の「ひたちのうしく駅」までは直線で35kmあまり。しかしもうGPSラリーにはウンザリだ。今日は終日地図を使わないつもりだったが、あっさり宗旨変えしてマップルを開く。

春日部を抜け、研究学園都市・つくば市を横切り、霞ヶ浦の手前にあたる「ひたちのうしく駅」に着いたのは、待ち合わせ時間よりだいぶ前。途中コインランドリーでたまった洗濯物を洗ったりと、余裕をもって走ったわりには、ちょっと早く着きすぎてしまった。

(関東甲信越:P55/B-3)

この駅はつくば博覧会の時に建てられたそうだが、キラキラと輝く豪華な駅舎の雰囲気に反して、周囲はまるで何もない。整地されただけの広大な空き地に、ザワザワとセイタカアワダチソウが繁っているのが目立つ。駐車場には利用客の車も置いてあるが、それも夕刻をすぎればだいぶ減ってしまう。

いつのまにか東の山並みから丸く白い月が昇ってきて、広々とした空き地を照らしだしている。つい何時間か前までBandit250と格闘していた都会の喧噪はここにはない。日本の首都でも、都心部から直線距離で40kmも離れると、こんなものなのだろうか。


黄色いバンディット400

やがて4気筒エンジン特有の排気音が響き渡り、お友達のT4氏と連れだって、仕事を終えたばかりのHg氏がイエローボディの鮮やかなBanditでやってきた。あとはこの駅のそばに居を構えるエル氏がそろえば、いよいよ今宵の宴の始まりだ。

以前阿蘇山のキャンプ場で1度だけお会いしたHg氏をのぞくお2人とは初対面であるが、やはり日頃の交流のおかげか、とても親しみを感じる。地元エル氏の案内で居酒屋風のお店で宴を張り、まずはジョッキの生ビールで乾杯!久しく味わっていなかった喉ごしに、疲れた体が震えるのを感じる。尽きない話に夜も更け、4人でエル氏のアパートに転がり込んだのはもう日付が替わる頃。

はたして幾本の缶ビールを空けても、こんなに心地よいほろ酔い気分は、独りではなかなか味わえないものだ。

さて、明日はいよいよ東北地方へ足を踏み入れる。気合い入れていくぞ!

※注5-1
[2002.03.29追記]・Hg氏に後日写真で確認していただいたところ、かなり近かったそうです。ご協力ありがとうございました。
(念のため書きますと現在は引っ越されております)

本日の走行
216km トータル1,049km
ガソリン
1,029円(平方南町・168km/9.8L)
洗濯乾燥
500円
食費など
3,630円
宿泊
0円
合計
5,159円