HOME

大観峰コーヒーブレイクミーティング・春

ツーリングマップルのページ記号は2003年春以降に発売された新版を基準にしています。

2006年4月23日

ミルクロードへの登り

ミルクロード目指して出発

意気込んで出発したはいいが、駐車場を出るとすぐに傾斜がきつくなり始めた。まだ乗り始めたばかりで脚が動き慣れていないので、うんと軽めのギアにして回し気味に進む。ハンドルに取り付けたGARMINハンディGPSの表示によれば、スタート地点の駐車場の標高は約490メートルと出ていた。目的地の大観峰は標高900メートル前後はあるはずだから、この目眩がするような高度差をクリアしなくてはならない・・。

ツーリングマップル九州P.26阿蘇2-A 旧版P.40阿蘇2-B

まあ、どんな坂でも最初のとっかかり始めは辛く感じるものだ。脚にかかるペダルの負荷が倍増して速度がガクッと落ちるせいか、視覚と運動量のバランスが崩れ、気持ちばかりが先へ先へと焦ってしまいがちなのだ。そのうち脚が暖まり、低いギアでのスロー・ペースにだんだん慣れてくれば、周囲の風景を眺める余裕も生まれてくるだろう。

いま乗っている折りたたみ自転車の通称3号機には、今日のこの登坂に備えるべくマウンテンバイク用の3枚組クランクギアを装備してある。フレームの構造上ディレーラー(変速機)は付けられなかったので、変速したくなったらいったん停まって手動でチェーンをかけ直すのだが、一番軽くすればペダルと後輪の回転数がほとんど同じになる程の軽さになるから、急坂でかなりの力を発揮してくれるはずだ。しかしこういう局面でいきなり一番軽くすると、脚は楽になるが気持ち的には後がなくなるので、スーパー・ローギアは最後の切り札として取っておく事にする。

この時間はまだクルマの往来が少なめだが、それでも時折家族連れのバンが真横をザーッと抜いていく。といってもこの勾配と連続カーブだからクルマの方もそんなにスピードは出していないので、すれすれを抜かれてもそれほど強迫感はない。たまに後部座席の子供が目を丸くしてこっちを見ていたりするので、軽く手を振ってやる。するとビックリしたのか恥ずかしがっているのかすぐにシートに顔を隠すが、またヒョコッと顔を出してこっちを見ている。

このように一見微笑ましいやり取りはオートバイに乗っている時にもよくあるが、クルマと同じ速度で進行しているとその後もずっと子供の相手をする事になってだんだん面倒くさくなったり、逆に向こうが飽きてしまってこっちを向いてくれなくなったりして、どうにも切ない思いをするものだ。だが自転車とクルマならば出会いはほぼ一瞬。この方がお互い爽やかな印象を残せるように思うのだが、いかがであろう。例えるなら、対向車線ですれ違うライダーには気持ちよく挨拶のピースを出せるのに、同じ方向に進むライダーが現れるとなぜだかちょっと鬱陶しく感じてしまうのと似ている。

崖下に見えるのは多くのゴミ

駐車場を出発してから約20分、標高は600メートルに近づいてきた。大きく左に回るヘアピン状のカーブを抜けると、体が慣れたのかそれとも傾斜が気持ちゆるくなったのか、脚に少し余裕が出てきた。このあたりはまだ木立も高くて下の様子はよく見えないが、高度は着実に上がっている。このようなヘアピン状のカーブはこのルート上に3,4箇所ほどあり、短い距離で路面はグンと高度を増す。そのぶんチャリダーには辛い難所だが、まだまだ脚は回ってくれるようだ。

しかしこうして自転車で急坂をギコギコ上っているとどうしても顔が下を向きがちになってしまい、結果道脇や崖下に投げ捨てられているゴミがやたらと目につく。確か熊本県は条例でポイ捨て禁止になっている筈だが(わざわざそんな条例を定めてある事自体おかしい気もするが)、この大観光地・阿蘇でもかなりの量のゴミが捨てられているようだ。たとえ観光地でなくても、一体どういう神経をしていれば路肩にゴミをポイポイ捨てて行けるのか、ちょっと理解に苦しむ。出来る事なら目についたゴミをいちいち拾って歩きたいが、どう考えても今の状況では無理。その無力感がいっそう気分を滅入らせる事になる。

3つ目のヘアピンカーブをどうにか乗り越えたあたりで、さすがに脚が限界に近くなった。ちょうどカーブのすぐ上に展望台らしきスペースがあったので、そこでちょっと休憩しよう。この展望台に入るところがまた急な傾斜になっていたが、最後のパワーを振り絞って立ち漕ぎして飛び込んだ。やれやれ、ようやく一息つけるぞ・・。

展望台と言っても少しの平地とベンチがある程度で、見晴らしもこの高さではそれほどいいわけではないようだ。すかっと青空が広がってくれれば印象も違うだろうが、今日はまだ白い雲が頭上に重く垂れ込めていて、阿蘇特有のパッチワークのような田園地帯もど事なく重苦しげだ。
少し喉が渇いたなと思ってデイパックを探るも、ここでスポーツドリンクのペットボトルを車内に置き忘れてきたのに気付いた。

展望台で休憩

「なんだよ〜、こんな時に限って・・!」

いつもは500ccかもう少し小型のボトルをウエストバッグに入れて走るのが常で、今日もほんの1時間くらい前に自販機で買ったやつがあったのに、荷物を降ろしたり何だりで忙しく、ついクルマのセンター・コンソールのボトル入れに置いたまま忘れてしまっていた。まあ今さら坂を下ってクルマまで取りに帰るのもアホらしいし、あきらめて先を急ぐとしよう。

タイヤやチェーンまわりのチェックを軽くやってデイパックを背負い直し、ふたたび急坂に挑戦を始める。さっき登りだった休憩所の入り口も出るときは急な下り。うんと勢いをつけてザーッと下るも本線の上り勾配であっという間に吸収され、快適ダウンヒルはものの数秒で終わった。さて、ゴールまであと何メートルあるだろうか・・。


近くて遠い尾根

休憩所から出た直後は何百メートルかきつい勾配が続いたが、標高700メートルを越えたあたりになると何となくペダルが軽やかになる感じがした。ハンディGPSで毎分の上昇率を見てもそれほど勾配が緩くなっているようには見えなかったが、たぶん周辺の木立がだんだんと開けて明るくなってきたせいではないだろうか。道もまっすぐ向こうまで見通せる部分が多く、息苦しさがだいぶ解消されている。

朝方は真っ白な雲で覆われていた外輪山も少しずつ晴れ上がってきたようだし、次の展望台に着く頃はだいぶ見晴らしも良くなっているかもしれない。気のせいかクルマの往来も増えてきたように感じる。

くねくねと曲がる道

出発してから40分、時刻はそろそろ9時半になろうとしている。標高はもう800メートルに近いが、外輪山の尾根を走るミルクロードはまだはるか彼方の上の方にかすんで見えている程度。たぶん直線距離にして1キロあるかどうかという所だが、何だかやたらと遠く感じてしまう。

「あそこまで上がりきるのに、あと何分かかるかな・・」

当てにしていた水が飲めなかったせいもあるが、ここに来てちょっと息が切れだしたようだ。最初はペダルのペースに合わせて「ハッ、ハッ、」とリズム良くやっていた呼吸も、もう上と下で完全に乱れてゼーゼー言っている始末。これは気圧が低いのも要因かもしれない。

作者愛用のオートバイ・Bandit250はエアクリーナーが汚れていると高度のある峠道では全然やる気を出してくれない困った癖があるのだが、今日ばかりはBandit250の気持ちが痛いほどよくわかる。しかしあんまり休憩ばかりしていると時間がなくなるし、かえって体が冷えてしまうからうまくない。少々キツイが、もうひと頑張りして尾根筋を目指そう。

進行方向右手、つまり山側に落石防御用のコンクリ壁があるあたりを過ぎると、ようやく標高800メートルを越える。この先にある最後のヘアピンカーブを抜ければ、ミルクロードへ上がる分岐の交差点はもう目の前のはずだ。といってもクルマやオートバイではすぐ目の前と感じても、自転車でははるか彼方だったりするから、あまり楽観視はせず、とにかく目の前の課題をこなす事に集中しよう。

そして最後のヘアピンが目の前に迫った。よし、今こそ踏ん張り時だぞ!
前ギアの間近にかかる回転中のチェーンをカカトで内側に軽く蹴って、スーパー・ローギアにチェンジ。これで速度は遊園地の水上バイクなみのトロさになったが、発揮される登坂力は最大。体重の配分に気を付けておかないとあっという間に前輪が高々と浮き上がるほどだ。勢い余って後ろにひっくり返らないよう注意しながら、じっくり最後の急坂にかかった。