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大観峰コーヒーブレイクミーティング・春

ツーリングマップルのページ記号は2003年春以降に発売された新版を基準にしています。

2006年4月23日

霧雨けむる熊本空港バイパス

4月の日曜の朝、時刻は朝7時半。
熊本空港からR57へつながる広い道を、クルマで北に向かって走っていると、黒く濡れた路面がまっすぐ伸びたバイパスの向こうまでつらなり、前走車の巻き上げる白いしぶきと、空からフワフワ落ちてくる霧雨が混ざり合ってフロントガラスにまとわりついてくる。間欠ワイパー機能を使うには濡れる量が足りないので、水気で視界が悪くなるたび手動でレバーを起こしてワイプするのがもどかしい。今日のお天気は回復基調だったはずなのに、やはり標高の高い阿蘇山の近くではテレビの予報通りというわけにはいかないようだ。

連休前の日曜、いつもならこの時間帯でもオートバイのツーリングライダーにバカスカ追い越されている所だが、さすがにこの空模様の下に愛車を引っぱり出すのは気合いが要るようで、自宅からここまで200キロ近く走ってきたのにもかかわらず、それらしい連中の姿はまだほとんど見られない。

今日は例の大観峰コーヒーブレイクミーティング・春の開催日なのだが、このぶんだと現地まで自走でやってくるツワモノは果たして何人いる事だろう・・?


阿蘇まで輪行する!?

今回の開催がこの日に決まったのは2ヶ月近く前の3月初旬、主催で熊本在住のKB氏から掲示板やメールで一斉に通達が回った。このコーヒーブレイクは本来オートバイのライダーどうしの輪を広げ、互いの親睦を深める場にしよう、といった主旨で毎回集まっているわけだが、今回の日程が決まる少し前くらいから、作者は次回の阿蘇行きではいつものBandit250ではなく、最近ハマっている自転車で行ってみるのも面白そうだナ・・とひそかに考え、いろいろ画策していたのだ。

といっても週末土日をフルに使ったとしても、この距離を自転車の自走で往復するのはまず不可能だし、荷物だってそれなりに持たなくてはならない。こういう場合まず思いつくのは自転車を列車で運搬する輪行で、コンパクトにたためる機種なら容易に乗せられるし、目的地近くに路線が通っていればかなりの時間短縮が得られる。さっそくJR九州のサイトで調べてみたら、これが予想以上に早く着ける事がわかって驚いた。
検索結果のひとつを挙げてみると・・

条件
川内駅(鹿児島線)から阿蘇駅(豊肥本線)まで、朝9時までに到着出来る事
結果(例)
06:13 川内駅発 九州新幹線つばめ30号
06:46 新八代駅着
06:49 新八代駅発 特急リレーつばめ30号
07:11 熊本駅着
07:22 熊本駅発 JR豊肥本線
08:43 阿蘇駅着
料金5,270円〜5,770円(運賃3,150円+指定席2,620円または自由席2,120円)
荷をデイパックに詰め込む

なんと所要時間たったの2時間半。これはいつもオートバイやクルマで行く下道コースよりも1時間以上速いタイム。高速道路をめいっぱい使ってもこのレベルに並ぶのは厳しいだろう。げに凄まじきは新幹線の速さである。

反面、料金は往復で1万少々とお高いが、道中駅弁を食べたり昼寝しながらノンビリ過ごせるなら、これくらいは妥当な線と言える。輪行自体は自転車に凝っていた10数年前から何度となく経験しているし、持っていく荷物もデイパックに収まるくらいで済むだろうから、特に問題はないはず。
まるで遠足前日の子供のように「今度の大観峰は自転車で行きますよ!」などと掲示板に得意げに書いていたのもこの時期だ。

しかし開催日が近づくにつれて、週末の天候がだんだん怪しげになってきた。毎回少々の雨でも集まった人たちだけで適当にやってしまうのが慣例だが、大雨のザーザー降りが予想されるとなれば、さすがに事前に考えざるを得ない。こういう判断はたいてい当日の朝に行われるので、出発時間を早める必要のある遠方からの参加者には頭痛の種だ。さらに毎回大きな機材を運んで来てくれる大分在住のトランザルプ・ライダー、GSさんが仕事の都合で不参加が決定したとの報も入り、いささか胃の痛い週後半を過ごす事となった。

だが作者の日頃の行いの良さが幸いしてか(GSさんの不参加という不運は考慮されていないが)、どたん場になって週末の天気予報が回復基調に変わって来始めた。毎年この時期は晴れてもあまり青空が長続きしないものだが、同様に雨雲も早めに抜けてくれるようで、この週末はどうにか開催出来そうだ。

ところでもうひとつ問題が残っている。沸かしたお湯でコーヒーを煎れるイベントには必需品とも言える、GSさんがいつも大きなツアラーバイクで運んで来てくれていたテーブルやコーヒーサーバーを代わりに確保しなくてはならないが、サーバーはともかくとして作者の自宅にあるのは旧式の大きなプラスチック製のレジャーテーブルで、広げた時の大きさや安定感こそいいものの、収納時でも長辺の長さ1メートル弱、重量は9キログラム近くもあるから自転車ではとても運べない。キャンプ用の組み立てテーブルを新しく買うにしても、他の荷物と合わせて輪行での同時運搬が困難な点は変わらなそうだ。
ここに至っては、もはや選択の余地はなさそうだ。列車での輪行は別の機会に譲り、荷物はすべてクルマに積み込んで現地まで運ぶ事にしよう。道中の新鮮味は格段に少なくなるが、これが一番確実な方法だろう。

・・まあ、これで往復の列車代1万円が浮いたわけで、正直な所ちょっぴり(いや、かなり)家計が助かったのだけれど。


ミルクロードから大観峰へ

車窓から見える大草原

R57にぶつかったところで立体交差の交差点を右折し、道の駅大津の少し先から左の筋に入って、阿蘇の外輪山の北側をぐるりと走るミルクロードに向かって坂道を上がってゆく。

ツーリングマップル九州P.25山鹿5-H 旧版P.39菊池4-F

R57大津から大観峰までの距離は約30キロ、この天候では坂を上がりきったら白いガスが流れて見通しが悪いだろうが、Bandit250でいつも走っている道なのでペースはつかみやすい。

つづら折れの舗装路に引いてある安全策のデコボコ線をゴトゴト乗り越えながら急坂を上がっていくと、やはり尾根道は一面真っ白いガス(雲)が充満していた。しかし風で切れぎれに流れてくれるようで、時折スカッと視界が広がり、野焼きの終わったばかりの阿蘇の大草原が遙か遠くまで広がって見える。

時には快走、時にはライトを点けての徐行を繰り返し、目的地の大観峰に到着したのが午前8時過ぎ。こんな天候の割には駐車場にはもう何台かのバスやクルマが入っていた。会場である第3駐車場へと短い坂を下ると、こちらは濡れた路面が広々と空いていて、まだ誰も来ていないようだ。それもそのはず、コーヒーブレイクの開催は朝10時からなので、本来こんなに早く着く必要はないのだが、今回は別件でちょっとやりたい事があるのだ。

さっそくクルマから荷物を降ろす。ただし降ろすのは例のテーブルとコーヒーサーバー類を入れた小さなリュックのみ。これらを近くの立木に太いワイヤーロックで固定し、持って行かれないようにする。まあこんな割れかけのボロテーブルを欲しがる奴もいないだろうが、これがないと今日のコーヒーブレイクは困った事になるから、念には念を入れておく。そしてふたたびクルマに乗り込み、来た道を戻って大観峰の駐車場を後にした・・。

内牧温泉から再スタート

大観峰を出てからほんの2キロも行かないあたりで、ミルクロードは小国と阿蘇市を結ぶR212と立体交差する。ここから左側へ折れ、坂をぐんぐん降りて外輪山を下りきり、内牧温泉の入り口にあるはな阿蘇美(あそび)という観光施設の駐車場にクルマを停めた。そして車体後部の荷室にゴムひもで固定してあった折りたたみ式自転車を引っぱり出し、手早く組み立てる。
そう、ここから自転車でふたたび大観峰まで、自分の脚だけで上がってみようというわけだ。

駐車場に自転車を降ろす

ツーリングマップル九州P.26阿蘇2-A 旧版P.40阿蘇2-B

当初の輪行の予定では近傍の阿蘇駅から大観峰までの約15キロを自走するはずだったけど、いろいろあって今回はクルマを使う事となったのは先に書いたとおり。しかしせっかく阿蘇まで行くのにそれだけでは何だかもったいないし、せめて阿蘇を自分の脚と愛車の自転車で走ってみたいなあと考えた結果、まず運搬の難しい大きな荷物だけを先に現地に運び、その後下まで降りてクルマを置き、自転車でふたたび大観峰まで上がる、というのを思いついた。これなら列車を使わない以外は一番最初の案とほぼ同じ行程をとれる。これで阿蘇の道を存分に楽しんでやろうじゃないか!

まあ厳密にやるなら6キロほど南にある阿蘇駅から出発すべきだが、駅のそばにクルマを半日近くも安心して停めておける駐車場がちょっと見あたらなかったのだ。前もって阿蘇市の観光協会に問い合わせた時に薦められたのがここ、はな阿蘇美の広大な無料駐車場だった。実はその時観光案内係の人に「その辺のスーパーの駐車場に停めてもらっても構わないですよ」なんて言われたのだが、さすがにそれは遠慮させて貰った。九州屈指の観光地である割にはずいぶん牧歌的な土地柄と見える。
それに阿蘇駅からここまでは田園地帯のまん中をまっすぐ突っ切る楽ちんな平坦路で、この先に控えているミルクロードへの急坂に較べれば、この区間をすっ飛ばしても気持ちの上でさほどのペナルティ感がなかったというのも大きい。まあ、この際細かい事は気にしないで行こう。

さて、いよいよここからデイパックを担ぎ、自分の脚でミルクロードのてっぺんを目指す。事前に調べて貰った情報ではここから大観峰までの7〜8キロで標高差は400メートルにも達するはず。背負うのは当初予定していたぶんの最低限の荷物とはいえ、出発前に計ったらこれでも5キログラム近くはあったから、道中けっこうな負担となるかもしれない。よく考えたらこれもさっきのテーブルといっしょに大観峰に置いてくればよかった気もするが、まあそれはそれ。今の作者はつい今しがた列車から降り立ったばかり、阿蘇の雄大な景色を前に意気上がる輪行ツアラーという設定だから、荷物がないのは不自然というものだろう。

現在時刻は午前8時半を少し過ぎたところ。コーヒーブレイク開催時刻の10時まで相当の余裕は見てあるものの、途中で何が起きるかはわからない。

「よし、行くぞ!」

いつのまにか小雨もやみ、かなり明るくなってきた空の下で、大観峰に向かってわが安物自転車のペダルを思いきり踏み込んだ。