自転車を公共交通機関(列車やバス)に乗せて移動する方法を輪行(りんこう)と言います。サイクリング愛好家の間では昔から行われてきた旅の手段ですが、自転車ブームの昨今、手軽でエコな移動手段として再び注目され始めています。
うんと遠くへ走りに行って、帰りは列車で輪行してゆっくり疲れを癒したり、県内外の観光地に愛車を持ち込んで終日思いきり走り回ったり・・自転車趣味のいろいろな楽しみ方がさらに広がる事でしょう。
自転車は、そのままの状態では列車内に持ち込めませんので、分解あるいは折りたたみ機能を活かして小さくする必要があります。
そして自転車本体を収納するための専用の袋、輪行袋も必ず用意します。硬い金属パーツや汚れたタイヤ・チェーンなどが他の乗客に触れると迷惑になるので、裸のまま列車内に持ち込む事は禁止されています。
旅客営業規則第308条(無料手回り品)
旅客は、第309条に規定する以外の携帯出来る物品であって、列車等の状況により、運輸上支障を生ずるおそれがないと認められるときに限り、3辺の最大の和が、250センチメートル以内のもので、その重量が30キログラム以内のものを無料で車船内に2個まで持ち込む事が出来る。ただし、長さ2メートルを超える物品は車船内に持ち込む事が出来ない。
2 旅客は、前項に規定する制限内であっても、自転車及びサーフボードについては、次の各号の1に該当する場合に限り、無料で車船内に持ち込む事が出来る。
- 自転車にあっては、解体して専用の袋に収納したもの又は折りたたみ式自転車であって、折りたたんで専用の袋に収納したもの
- サーフボードにあっては、専用の袋に収納したもの
(後略)
参考リンク:JR東日本 旅客営業規則第10章 手回り品
かつては輪行による移動を前提とした設計のランドナーやキャンパーといった長距離旅行用の車種が存在しましたが、今やこのジャンルは衰退してしまいました。しかし特別な構造をもった車種でなくても、上記の規約の条件を満たせば輪行は可能です。
つまり適当なサイズの輪行袋と分解に要する工具、そして相応の時間さえあれば、ご家庭にある普通のママチャリでも輪行は出来るのです・・とは言え、人通りの多い駅前でスパナをふるってママチャリをバラしたり組み上げたりするのは、あまり一般的とは言えません。
その点、クイックレリーズハブを備えたスポーツ車ならば、ほぼワンタッチで車輪が脱着出来るので、気軽に輪行が楽しめます。小型化に特化したフォールディングバイクならばもっと楽チンに、短時間で手も汚さずに収納・展開が可能でしょう。
2008年に購入して以降、日常の足としてはもちろん、体力作りやレジャーサイクリングの主力としても愛用しているクロスバイク、GIANT ESCAPE R3を使った輪行の手順を書いてみます。
使用する輪行袋はオーストリッチの軽量型L-100、そしてディレーラーやフレームを保護するためのエンド金具。
クロスバイクやロード系の場合、この組み合わせが今一番ポピュラーな輪行セットだと思います。
金具は輪行袋のパッケージ内に折りたたんで収納しています。
まずは通行人の迷惑にならなそうな平らなスペースを見つけ、前輪と後輪を外します。
外す前の準備として、前後Vブレーキのワイヤーリードパイプをアーム本体から解放し、各ギアの位置はフロントをアウター、リアはトップに。そうする事でスプロケを抜きやすくなり、外した後でもチェーンが垂れ下がりにくくなります。
ホイールを外した後で、リアディレーラーをロー位置にして内側に引っ込めておけば、移送中にぶつけてしまうリスクを多少は減らせます。
ESCAPE R3のクランクにはプラスチック製のチェーンガードが標準装備されているのであまり関係ありませんが、ロードバイクなどチェーンリングがむき出しの車種では、一番大きいアウターギアの歯と輪行袋がこすれて穴が開いたり、タイヤの側面に食い込んでパンクを引き起こした経験があり、なるべくアウターギアにチェーンを乗せるようにしていました。
エンド金具を箱型に組み立て、リアエンドにはめ込んだら角度を調整しつつクイックを締め、サドル後端との三角支持で立てた時に金具が垂直になるようにします。
慣れればちょうどいい金具の角度がわかってきますので、いちいち立てて調整せずとも一発で決められるようになります。
エンド金具のパイプ部分を仮のスプロケットに見立て、チェーンをくぐらせてピンと引っ張るようにセットすれば、移送中にチェーンが暴れてフレームが傷つくのを防げます。
ハンドルを一杯に切った状態にします。フレーム右側にはギアなどの駆動パーツがあって重く、ハンドルも右側に切ると重みが増して立ちのバランスが悪くなるので、反対側の左に切っておいた方が全体の座りがよくなります。
そして輪行袋に付属している3本のバンドで、両側からフレームを抱くようにしてホイールを固定します。
タイヤはなるべく地面から少し浮かせた方がいいです。揺れる列車内ではどうしても壁や椅子に立てかける形になりますが、タイヤが接地していると傾けにくくなり、また重みがかかってバンドの結束がズレやすくなるからです。
縛る位置は車種やフレームサイズによっても最適な位置が異なるでしょうから、前もって練習して自分なりの位置を考えておきます。
ホイールの固定は経験者と素人で一番差が出る部分です。ここで手を抜くと移送中に中で動いて持ちにくくなったり、フレームに傷が入ったりして泣きを見る事になります。力まかせにグイグイ締め込む必要はありませんが、少々の事ではグラつかないよう確実に結束しましょう。出来上がってから左右にゆすってカタカタ動くようではまだ不十分です。傷つきが心配なら、ウエスや市販の保護カバーキットを使うのも手です。
しっかりまとまったら、輪行袋を広げて中に入れます。ほとんどの輪行袋は納める向きが決まっていますので要確認。
最近の輪行袋はサドルやディレーラーの位置がちゃんと図示してあるので間違えにくくなっています。
幅広の肩掛けベルトをチェーンステーの根元に回し、カメラのストラップの要領でループにします。
輪行袋のチェーンステー側の側面にある専用のスリットからベルトを引き出します。
スリットから引き出した肩掛けベルトのもう一端を、そのままヘッドパイプに回し、同じようにループにして固定します。
あとは袋の余りを引っ張り上げ、フォークの上まで覆い、巾着の要領で紐を絞ります。
リアエンド同様フロントフォークの先端にも、ぶつけた時に変形するのを防ぐ目的でエンド金具を付けたりしますが、短時間列車に乗る程度なら常に手元に置いておけるし、ESCAPE R3の場合は比較的強度の高いクロモリ製フォークですから、そこまで心配する必要はないでしょう。軽量かつ高価で修正の効かないカーボンフォーク車では付けた方がいいかもしれません。
肩掛けベルトは絞った部分から外に出るようになります。余った紐は引っかからないよう隙間から中に落とし込んでおきます。
以上で収納完了!最初からここまで、慣れれば10分以下で出来るようになります。
肩掛けベルトはあまり長くせず、袋に脇の下が付くくらい短くしておいた方が持ち歩きやすくなります。
フロント用はリアエンド金具と違ってごくシンプル。ハブの代わりに何かを挟んでおけばいいだけなので、市販品もあっさりとした作りです。
金属パイプとワッシャーが2枚あれば自作も可能。
外径12ミリの金属パイプと、M5×16の平ワッシャー2枚を用意し、細い針金かビニールタイで輪にして結束します。
パイプの長さはフロントフォークのエンド幅(通常100ミリ)からワッシャーの厚みを引いた値にします。
パイプを切る時、斜めにならないよう切るのが一番難しそうですが、回転式のパイプカッターを使えば簡単。切り口は金ヤスリで仕上げます。
あとは市販のクイックシャフトを通せば出来上がり。
別途クイックを持たなくても、今使っているホイールのクイックシャフトを抜いて使えば、そのぶん荷物も減らせます。
近年、走行性能がどんどん上がって来ているフォールディングバイク。さすがに700Cホイール装備の本格スポーツ車には及びませんが、輪行による移動をメインにしたツーリングでは、慣れれば1〜2分程度で収納・展開出来る機動性が、旅先で強力な武器となります。
駅に駆け込んで時刻表を見たら、次の列車の出発まであと数分しかない!なんて場合にも余裕を持って対応可能。これが700Cフルサイズのロードバイクだったなら、よほどの熟練者でない限り諦める他ないでしょう・・。
作者の愛用するフォールディングバイク、シボレーFDB206での輪行手順を書いてみます。
FDB206はDAHON車と同じ構造なので、純正オプションのスリップバッグという製品がそのまま使えます。
携帯用の収納カバーは本体の袋と一体になっているので、出先でなくす心配はありません。たたむと小型のポーチ程度のサイズに収まります。
参考リンク:気まチャリブログ・DAHONスリップバッグのたたみ方
スリップバッグを展開し、床面に広げます。
バッグの底部、つまりマチの部分は非対称になっており、一方が狭く、もう一方は広くなっています。
取説には、自転車を折りたたんだ状態で、タイヤのある側を広い方に向けて収めるよう指示されています。
幅の広い側には、タイヤ側である事を示すタグが付けてあるのでわかりやすいです。
ただし製造ロットによっては付いていないものもあるようです。
このマチ部分をお日さまにかざしてみると、生地が二重になっているのがよくわかります。
DAHON車は折りたたむと長いシートポストの下端がフレームの下に突き出し、車体を支える足の役割をするという独特の設計。そのポストの先端が当たっても大丈夫なように強化されているようです。
自転車をスリップバッグの上に乗せたら、両側のファスナーを引き上げます。
写真のバッグは20インチ用。余裕のある造りになっているので、ぎゅうぎゅうになる事はありません。
上で書いた通り、スリップバッグの底が二重になっているとは言え、10キロ以上ある車重が金属製のシートポスト下端の一点にかかって、路面や列車の床面と擦れたら破れてしまうかも・・と気になる人もいるでしょう。
そんな場合、シートポスト下端にテーブルや椅子用の保護カバーを付けて緩和させるという裏技もあります。
DAHON系ユーザーの間では、室内保管時に床板や畳の傷つきを防ぐため、あるいはシートポスト自体の傷防止対策として有名です。
保護カバーはその辺の百均でも普通に売っていますので入手は容易。ガッチリとしたゴム製のキャップ状のものもありますが、布製ならばペッタンコにしてスリップバッグのパッケージに一緒にはさんで収納しておけます。
ちなみにDAHON製の軽合金シートポストは外径34ミリ、内径はものによって違いますが25〜27ミリ程です。
ファスナーを閉めきる前に、付属のショルダーストラップを取り付けます。
一方はタイヤをまとめて固定します。バックル式になっているのでワンタッチでOK。
ストラップはバッグの生地に設けられた、専用のスリットから出入りするようになっています。
同じくフレーム側にもストラップをセット。
付属物がある場合は、重みがかかってもいいようにルーティングを考えてセットします。
ストラップを取り付けたら、ファスナーを上まで引き上げ、収納完了。
持ち上げる時はストラップに重さがかかるように。バッグはあくまでカバーのみの役割です。
ストラップがなかった旧スリップカバーのように、ファスナーの隙間から手を突っ込んでフレームを直接持ち上げてもいいですね。この方式で行くならストラップを省けるぶん手間も減って、より軽量コンパクトに携帯可能となるでしょう。
ところで、メーカーの取説によると、
注意:持ち運びの際は必ずサドルまたはフレームを持って運んでください。
ショルダーストラップは補助用の機能となっております。
ストラップのみで車体を支えるとバッグの破損につながる恐れがあります。
とあります。しかし構造上バッグ自体に重みは全くかからないので、破損する可能性はちょっと考えられません。
おそらくこの取説が書かれた時点では、バッグの生地に直接ストラップを取り付ける予定だったのかもしれませんね。実際、同メーカーでそういう製品があります。
スリップバッグが登場する前に、DAHON系の車体で定番として使われていたスリップカバーも紹介してみます。
携帯時や展開サイズはほぼ同じで、ストラップが付属しない分だけ薄くまとまります。重さもスリップバッグが実測値340グラムに対して230グラムと軽量。
カバーという名の通り、自転車を中に入れるのではなく、上から覆うようにしてセットします。
すっぽり覆ったら、裾部分にある紐を巾着のように絞り、サイドにあるマジックテープ付きのベルトでたるみを調整するだけ。慣れれば1分以下でセット可能です。
ショルダーストラップは付いておらず、上部に設けられた専用スリットから手を差し込み、フレームを直接つかんで持ち運ぶスタイルになります。
スリップカバーはその構造上、底部が完全に覆われず、タイヤやシートポストが接地したままになります。
どういった経緯かは不明ながら、2013年頃よりJR各社でこの部分を問題点として挙げ、「完全に収納された状態とは言えず、このままでは列車には乗せられない」と、従来のルールをより厳格に運用しようという動きが目立つようになりました。
参考リンク:キウイハズバンド・ご注意!JRでブロンプトンの転がし輪行はできません
袋からハンドルやフレームがにょっきり飛び出しているようなのは論外としても、触れる可能性の低い底部のわずかな露出を理由に持ち込みNGとするのは、ちょっと厳しすぎるようにも思います。スリップカバーの他にも同様のカバー型輪行袋はいくつか存在しますが、それで問題が起きたなんて話はちょっと聞いた事がありません。
作者も地元の路線を時々利用しますが、現場の駅員さんの対応にもばらつきがあるのか、それとも単に気づかれていないだけなのか(近くでよく見ないと分かりにくいでしょうから)、「こんな袋じゃダメですよ」などと注意された事は一度もありませんでした。
そもそも、これが迷惑になると言うのならキャリーバッグやベビーカーはどうなんだい、完全収納どころかフレームや車輪が丸出しじゃないか!などと訝ったりもしましたが・・。
・・とは言え、鉄道会社側が「完全に覆って下さい」と言うのであれば、ルールはルールですから、今後は従う他ないでしょう。
DAHONが完全覆い型のスリップバッグを発売したのもほぼ同時期の2014年でしたから、このような情勢の変化を捉えての事だろうと思われます。
メーカーの公式サイトにも、
より多くの公共交通機関で使っていただけるだけでなく、車体のキズを防ぎ、周囲の方にとってもより安全なものになっています。
とあるのがその証左ですね。
ちなみにスリップカバーの紐をめいっぱい引き絞っても完全には閉じきれません。それに薄い生地がシートポスト下端に押されてピーンと突っ張るため、擦れて破れてしまう可能性が高いです。
カバーの向きを変えて別の位置で引き絞っても、袋の形がフィットせず、中身が見えたり飛び出したりで、完全収納状態にするのはまず無理でしょう。
スリップカバーはその手軽さを生かし、今後は室内保管や自動車輪行の時の内装汚れ防止カバーとして余生を送る事になりそうです。
自転車の収納が完了したら、あとは普通に切符を買って列車に乗り込むだけです。上の方で引用した旅客営業規則にあるとおり、現在すべてのJRとほとんどの私鉄では、輪行に別料金はかかりません。ただし持ち込みを許可していない路線も中にはあるようですので、出かける前に調べておいた方がいいですね。
許可されている場合でも、これだけのサイズの荷物を客室内に持ち込むわけですから、それなりの配慮は必要です。作者はいつも車輌の一番前か後の、椅子のない空いた場所に置き、肩ベルトを手すりに固定して倒れないようにしています。空いているローカル線なら自分の席の隣に置く事も可能ですが、他のお客さんの邪魔になるようならすみやかに移動させましょう。朝夕のラッシュ時は出来るだけ避ける事も重要なマナーのひとつです。
サイクリング中、自転車が大きく壊れるなど自走不能な状態に陥った場合、コンビニで大きなゴミ袋とビニールテープを買って貼り合わせ、輪行袋の代用にするという非常手段が昔からあります。しかし見かけは似ていても専用の袋ではないので明確な違反行為。作者も昔一度やった事がありますが、駅員さんはあまりいい顔はしていませんでした。
まあ、差し迫った状況ならそうしたくなる気持ちもわかりますが、輪行袋を持つ(買う)のが面倒だから、と毎回ゴミ袋を使った輪行をやっている常習犯も中にはいると聞きます。そのうち今以上に規制を厳しくされたり、最悪持ち込み禁止にされるなど、ちゃんとルールを守っている人たちまで迷惑をこうむる事にもなりかねませんから、絶対やめてほしいものです。
ところで、普段あまり混雑せずにのんびりしている田舎のローカル線では、駅員さんに事情を説明し、許可を得た上で、分解せずに袋もなしで乗せて貰えた例があります。これは作者の地元にある肥薩おれんじ鉄道の駅員さんに伺った話です・・
お客さんが別の町に引っ越す事になり、荷物をまとめて送った後、大事な自転車は列車による輪行で運ぼうとしたものの、うっかり輪行袋も荷物といっしょに送ってしまっていたのです。そこで例外として「大きな手荷物」という名目にしてもらい、手回り品切符を1枚買う事で引越し先の町まで自転車をそのまま乗せてあげた事があったそうです。
現在の肥薩おれんじ鉄道は自転車を車内に持ち込めるサイクルトレインを運行していますが、このお話はそれが導入される前の出来事。当時もレンタサイクルに限っての運搬は行っていたので、そのあたりの融通が効かせやすかったのかもしれません。
というわけで、出先でどうしようもなく困った時にはダメ元で駅員さんに相談してみるのもひとつの手でしょう。
上で紹介した肥薩おれんじ鉄道のサイクルトレインをはじめ、各地には自転車をそのまま乗せて運べる列車が運行されています。
熊本県の球磨地方にある、作者もよく利用するくま川鉄道では、前もって予約を入れておけば、自転車を分解せずに列車に乗せられます(有料)。もちろん通常の無料の輪行も可能。沿線には全長30キロもある自転車道、球磨川サイクリングロードが整備されており、列車を併用する事でまた違った楽しみ方が生まれるでしょう。
同じ熊本県の熊本市内にある熊本電鉄も自転車をそのまま列車内に持ち込める路線として有名で、テレビでもよく紹介されています。ただし利用可能な時間帯の制約があり、自転車が濡れる雨の日などは使えません。
探してみたら、他の地方でもこのような自転車フレンドリーな路線があるかもしれません。
昭和時代、自転車を列車内に持ち込むには乗車券の他に手回り品切符と呼ばれる針金付きの荷札のような切符が必要で、1枚250円しました。さらに当時は乗車距離に関わらず、乗り換える度に新しく買い直すという決まりだったので、例えば途中で特急から普通列車に乗り換えたら合計500円ぶん必要となりました。一方でブルートレインのような長距離列車ならば東京から鹿児島まで乗っても1枚250円で済むという、ちょっと不思議なシステムでした。
作者は昭和59年から平成の初めまでは神奈川県内で勤めていて、当時はロードレーサーに夢中だった事もあって、毎年暮れに鹿児島まで帰省する際には旅のお供に愛車を輪行して持ち帰っていたものです。日程に余裕がある時は年末年始でも比較的切符が買いやすい長距離フェリーを利用するコースが好きでした。川崎港からのんびりと一日かけて宮崎の細島港に着いた後、最寄りの日向市駅まで短く自走。そして実家のある鹿児島まで、JR日豊線と鹿児島線を乗り継いでの輪行です。駅弁をつつきながら夕暮れ時の太平洋の景色を楽しむ年に一度の帰省旅・・忙しい日常を忘れて、とても優雅な気分になれたものです。
一方、この行程で手回り品切符に関するやり取りがスムーズに行った事はほとんどありませんでした。駅員さんが買い換えルールを知らず「もう持ってるのに買う必要はないでしょう?」などと渋られたり、手回り品切符を買う人が普段ほとんどいないためか、窓口の棚のどこにしまってあるのかわからず、時間が押して乗り遅れそうになったり。そこまでしてルールを守っているのにもかかわらず、検札や降車時に手回り品切符の確認を受ける事はまれでした。もう次からは買わずに乗ってやろうか?と思う事も度々・・。
今や懐かしい思い出ですが、輪行という旅の手段が一般向けに解放されてまだ間もない頃で、鉄道会社の職員にもあまり認知されていなかったのでしょう。自転車ブームの昨今と違い、多摩川の堤防道を走っていても同好の士とすれ違う事なんかほとんどなく、たまに出会うとお互いに手を振って挨拶していたような時代のお話です。
かつて輪行は競輪選手や日本サイクリング協会に会費を納めている人たちだけの特権でした。それが昭和59年に一般向けに解放され、平成11年にはJRの全面無料化にまでこぎつけました。その背景には、自転車に関わる数多くの人々の多大な努力があったと聞いています。
せっかく利用しやすくなったシステムが、また規則でがんじがらめにならないよう、お互いが公共のマナーを守りつつ、楽しい自転車ライフを送りたいものです。