作者の本業は電気工事。ある日知り合いの家にてエアコン移設をやった時の手間賃代わりとして、車庫の隅に使わないまま放置されていた20インチの白いフォールディングバイク(折りたたみ式自転車)を貰ってきました。それがこのシボレーFDB206です。
フレームにCHEVROLET(シボレー)のロゴと、蝶ネクタイを模した有名なシンボルマークが大きくプリントされています。このように自動車会社の名前をつけて売られている自転車はホームセンターでもよく見ますが、そのほとんどはブランド貸しという手法で販売されているもので、フレーム制作や組み立ては全く関係のない会社が行っており(大抵は中国企業)、販売に関しても自動車メーカーはほぼ関わっていません。このFDB206も輸入販売は日本のジック社が取扱っていて、新車価格2万2千〜2万5千円ほどで流通していました。
自動車メーカーロゴ付き自転車と言えば、どうしても安物、バッタ品の烙印を押されがちですが、このシボレーFDB206に関してはちょっと事情が違います。フォールディングバイクの世界的メーカーであるDAHON社の特許技術をライセンスして作られており、その辺の安物とは一線を画した仕上がりなのが特徴。
変速ギアの段数が6速である事を除けば、2002年型のDAHON純正IMPULSE D7(7速車)とほぼ同じ仕様で、おそらく生産設備も同じではないかと推測されます。
DAHONの技術が使われている証として、フレームに虹色の小さな認証ステッカーが貼られています。DAHONライセンス車・OEM車と呼ばれるこれらの車群はFDB206以外にも数多く存在し、リーズナブルな価格で本家DAHON並みの使用感が味わえるとあって、愛好者は多いのです。
国内ではホームセンター山新で扱っている通称YAMAHONが有名どころ。サイクルベースあさひの独自ブランドでも何種類かあり、仕様が毎年のように変わったり、ブランドネームの変更も多いので全体像を把握するのは困難。店舗のラインナップや通販サイトをまめにチェックする必要がありますが、それも楽しみのひとつと言えるでしょう。
2007年8月9日追記 シボレーFDB206は2007年からFDB206Nとしてモデルチェンジされ、フレーム形状がよりシンプルなストレートタイプ(DAHON BOARDWALK風)になりました。主要パーツはほとんど変わっていませんが、サドルの固定がヤグラ式からアーレンキー(六角レンチ)による1本留め式になり、従来錆びやすかった泥よけはステンレス素材に変更。スタンドがメンテナンス時に便利な後輪軸位置に移動し、ハンドルステムの折りたたみ方向もフレーム外側に変わっているようです。
2010年12月8日追記 現在FDB206Nの在庫はほぼ払底しているようです。同じシボレーブランドでも、折りたたみヒンジにDAHON特許を取り入れていない並のタイプは今も売られているようですが、出来がかなり違います。見分け方としては、フレームやハンドルの折りたたみレバーのしくみが異なる点、フロントギアのサイズが小さい点などです。
ホームセンターでよく見るタイプの20インチ車はホイールベース(前後の車軸間距離)が970〜980ミリ付近なのに対し、このFDB206は同じホイールサイズであるにもかかわらず10センチ近く長い1,040ミリあります。
これのおかげで小径車にありがちな直進安定性の悪さが大幅に改善されており、街中で普通に走る程度のスピードでも簡単に手放し運転が出来るほど。ホムセンで安売りされている20インチ車から乗り換えた人は、安定性とハンドリングの良さにかなり驚くはずです。
スタイリングを特徴づけているシートポストは軽合金製で直径34ミリもあります(普通の自転車は25.4ミリ)。長さも60センチ近くあって、リミットラインまで伸ばすとサドル上面は地上高1メートルを越えますから、サドル高が足りなくて困る人はまずいないでしょう。
もっともシートポストがこんなに長く太い理由は、折りたたみ収納時に下端がフレームの下に突き出て車体を支える役目があるためです。
全長が長い割に折りたたみサイズは無印20インチとほとんど変わらず、フレーム素材もハイテンスチール(つまり鉄)ながら実測13キログラムと、やや軽く仕上がっています。
オリジナルのサドルはクッションの効いたスプリング付きで、フチが大きな鋲で留めてあるクラシカルなタイプ。しかも上面にはシボレーのマークが型押し加工してあるという贅沢な専用品。
ハンドルグリップはサドルと同じ色で、編み上げ風の飾りのついたオシャレなタイプ。
シフターはmicroSHIFT製の6速グリップ回転式でしたが、内部の爪か何かが壊れていてうまく動かせなかったので、手持ちのシマノ製6速グリップシフターに交換しました。microSHIFTはシマノと互換性があり、リアディレーラーも最初からシマノ製がついていたので問題なく使えています。
シートポストと同様に長いハンドルステム。高さ調整はなく、ハンドルバーも溶接された一体型なので交換は出来ません。中央部は乗員に向かって不自然に湾曲していますが、これはハンドルを折りたたんだ時、ホイールの間に無駄な隙間が出来ないよう、ブレーキレバーの出っ張り分を逃がすためだと言われています。
ステムがかなりヒョロ長く立っているせいで、あまりスポーティな外観とは言えません。実際、スポーツ走行的な前傾姿勢や坂道でのダンシングペダルにも全く向きませんが、運転中の見晴らしがとても良く、かと言ってママチャリのような直立ポジションというわけでもなく、お尻への突き上げも想像していたよりは少ない印象。おそらくクランク軸の位置や、ハンドルとサドルの間隔が適度に開いているのが効いているように思います。
ステアリングヘッドは旧型のスレッド式で、フォークコラム外径28.6ミリ(1-1/8インチ)、ステム外径25.4ミリ(1インチ)と、かつてMTB(マウンテンバイク)フレームでよく使われていたオーバーサイズ仕様になっています。
前後に装備された強力なVブレーキといい、このフォールディングバイクはその華奢な外見に反してMTBの様式を色濃く受け継いでいるように見えます。
折りたたみ機構はDAHONの特許技術のひとつ、バイスグリップと呼ばれるシステムで、シンプルな構造で確実感があり、テンション調整も簡単。純正車及びライセンス車を除く他メーカーでこの方式はほぼ見られません。
上側のパイプにはヒンジはなく、樹脂でカバーされたパイプが単純に向かい合っているだけ。これもDAHON独自のRe-Barと呼ばれる構造で、振動やショックを分散させる役割を果たします。この合わせ部分を走行中に素手で握ると、ごくわずかに前後動しているのがわかります。
このようなフォールディングバイクに特化した数多くの技術をDAHON社が先行開発して特許でガードしているため、同業他社で新しいフォールディングバイクの開発が困難になっているとさえ言われています。
リアディレーラー(変速機)はシマノのRD-TY22。ママチャリ同様、フレームにディレーラー用のダボ(取り付け穴)がないので、台座つきのディレーラーを後輪シャフトで共締めするタイプです。
フリーホイールも昔ながらのボス式、シマノのMF-HG22で、6段ギアの歯数は14,15,18,21,24,28T。
チェーンホイール(前ギア)は歯数が52Tとかなり大きく、クランクアームもちゃんと大人向けの170ミリで、小径車としては余裕のあるスピードで走れます。
チェーンホイールの固定方式は上級タイプに多い5アームではなく、ママチャリと同様、ギア板の中央でクランクアームとカシメてある安価なタイプ。メーカーは不明ですが、クランクアームの裏面にMGという刻印がありました。
銀メッキ樹脂製のチェーンガードは外側にのみ装備。間隔がちょっと開いているせいか、時々チェーンがすき間に落ちます。
クランクの回転軸にあたるBB(ボトムブラケット)は安価なママチャリにもよく使われる外ワン式のカップ&コーン式ベアリングで、最近流行りのシールドベアリングと異なり、簡単に分解整備が出来ます。クランクとシャフトの勘合部分もポピュラーなスクエアテーパー(四角断面)です。
参考:シボレー FDB206・ボトムブラケットのオーバーホール
ペダルはメーカー不明の折りたたみ式ですが、形状からSR SUNTOUR製かと思われます。全面黒地の樹脂製で踏み込み面にはすべり止めゴムはついておらず、雨の日にはちょっと滑りやすいです。
ハブは前後とも28H(スポーク用の穴の数が合計28個)の軽合金製で、フレームには六角ナットで留めるタイプ。表面に文字刻印は一切なく、メーカーは不明です。
フロント側のオーバーロックナット寸法(フレーム取り付け部分の幅)はDAHON独自の74ミリ(一般的には100ミリ)。
リアは6、7速仕様で一般的な126ミリ。
スポークは前後ともステンレス製で、太さ2ミリ(通称14番)のプレーンタイプ。部分的に黒サビが浮いてくるのであまり品質のいいものではないようです。組み方は前後とも一般的な6本取り。
参考:シボレー FDB206・ホイールハブベアリングのオーバーホール
ホイールリムは軽合金のHEタイプ。バルブ横にX-RIMS C1000 ETRTO 406×20 20"×1.5と刻印があります。これはリムサイズがETRTO規格でビード座直径406ミリ×ビード座幅20ミリ、適合タイヤサイズはインチ表記で20×1.50インチである、という意味でしょう。リムの外幅は実測で25ミリほどでした。
バルブの反対側にはTHE Heartbeat OF AMERICAのロゴとシボレーのマークの入った飾りデカールが貼ってあります。
タイヤはKENDAのKWEST 20×1.50が付いていて、こちらもAMERICA何とかというロゴの入った専用品でしたが、残念ながら長期間放置でボロボロになっており、早々に手持ちの20インチタイヤと交換したため写真は残っていません。
エアバルブはごく一般的な英式です。
ブレーキは前後ともAPSE製の軽合金Vブレーキで、裏側にVB-210D Fと刻印があります。一般的なバンド式ブレーキと違って調整やメンテナンスがしやすく、効きも強力。パーツのグレードアップも容易なのがうれしい点です。
ブレーキレバーは台座もレバーも軽合金製で、バフがけクリア塗装に開度やテンション・アジャスターも付いている本格的なものですが、ハブ同様にメーカーや型番の刻印は一切なし。
その他、ちょっと変わっているのはクランク軸後ろのチェーンステー間に取り付けてある軽合金製センタースタンドで、先端部分に長さを調整するしかけがあり、駐車時の車体の傾斜角を自分好みに変える事が出来ます。タイヤの太さを変えた時などにも便利かもしれません。
ただしこのスタンド、見かけはいいですが、立てた状態でペダルを回すとひっかかるので、チェーン注油などの整備をしたい時にはかなり不便です。