小排気量・高回転エンジンにはつきものの低回転トルク不足。中でも初期型Bandit250は山岳路での坂道発進などは大の苦手です。信号待ちからの発進でつまずいて、後続のトラックに踏みつぶされそうになった経験だって一度や二度ではありません。これをなんとか改善する方法はないでしょうか?
以前BanditオーナーズクラブBands!の掲示板において、
初期型250のうち、最初期型である45馬力型のキャブに、マイナーチェンジ後の40馬力型用パイロットジェットを装着すると、そのぶん低回転トルクが増して市街地走行が楽になるのではないか?
という話題がもちあがった事があります。このパイロットジェット(以降PJ)とはキャブの内部にあるガソリン流量を調節する部品のひとつで、主にアイドリング近辺からアクセルがやや開かれた中間付近までの回転数を担当しています。もし上手くいけば、低回転トルク不足に悩む初期型ユーザには福音となるやもしれません。さっそく実行してみました。
まずはタンクを降ろし、キャブレターを外します。
チャンバー部を開け、ジェットホルダについているPJを取り出し、後期型のジェットと交換して、元に戻します。
上が40馬力用 #12.5 パーツNo.09492-12007
下が45馬力用 #15 パーツNo.09492-15013
番手で2.5の差ですが、さすがに肉眼では見分けがつかないです。ちなみにあと2つのジェット、パワー(チョーク)とメインは前期後期とも同じモノを使っているようです。
交換してからいくらかの距離を走ってみました。
たしかに発進や低速走行では(若干ですが)扱いやすくなりました。いままで4,000回転あたりにあった実用トルクの境界線が、やや下の方に移った感じです。シフトアップ時の回転落ち込みも少なく、スムーズにチェンジ出来る感じです。
しかしながら、低速で坂道をゴロゴロ登っている時にガバッとアクセルを無理に開けるとエンジンストールしそうになるのは、以前となんら変わりません。改善はあくまでもフィーリングの範囲内のようでした。
このPJ交換以外ではニードルを新品に替えてみるのも低回転トルク改善に効果があるようです。一般のメンテ本には「ニードルは中回転域の制御を受け持つパーツである」と書かれている事が多いですが、実際にやってみるとどうもエンジンの始動性や発進時の扱い易さにも少なからず影響しているようなのです。
この写真は上が新品で、下が3万キロほど走ったニードル。アクセルの開け始めのあたりが部分的に摩耗して、表面のコーティングも落ちています。これを新品に換えると、エンジンの動きに節度がついて、低回転での頼りなさも薄れる印象を持ちました。値段も1本610円(2004年9月時点)とお手頃ですから、パーツの入手可能なうちにぜひ換えておきましょう。(参考:キャブ/ピストンバルブ・ニードルの分解掃除 )
もちろんこういう部品交換以外に、基本的なエアクリーナーやプラグ回りのチェック、PS調整やキャブの同調をきちんとやっておく事もすごく大事です。
初期型Bandit250は89年12月に発売された当時は45馬力のエンジンを搭載していましたが、92年9月のマイナーチェンジ時に、当時各メーカー間で申し合わせられた出力上限の自主規制(建前こそ自主規制ですが実際はお役所からの締めつけ)にあわせ、最高出力が40馬力に押さえられました。カタログではほんの5馬力の差ですが変更点は数多く、カムシャフトやキャブ、イグナイターにも変更を受けて回転数の上限が下げられました。そのぶん中・低回転域のトルクが増強されて扱いやすい特性になっており、PJの#15から#12.5への小径化もこれに伴うものであろうと作者は考えていました(厳密にはパイロット経路のエアージェットも40馬力型は径がやや小さくなっていますが、圧入されているため交換は困難)。
しかし規制前のBandit250の中で、40馬力型に先んじて#12.5のPJが採用されていたモデルがありました。GSF250ZM、ロケットカウルが特徴のBandit250Limitedです。これは初期型としては後発にあたるのですが、最高出力は45馬力のまま。パーツリストやマニュアルを見渡した限りではパイロット経路以外のキャブ内部パーツやエンジン部品は一般の初期型とほぼ同一です。
つまりパイロット経路の変更はマイナー前にすでに実施されており、しかもPJは先に書いたとおりトップエンドの馬力にはあまり関係しない部分ですから、これは初期型Bandit250における低回転域の扱い易さを向上させる目的でスズキが行った対策のひとつだったような気がしています。
もしそうなら、この#12.5のPJを45馬力のキャブに組み入れても副作用が起きない、という安心感にもつながるのですが・・。
PJ交換後数年を経た今も、わが家の45馬力型Bandit250は快調に走り続けています。