プラグまわりの点検や交換の手順を書いてみます。
初期の性能をきちんと発揮出来る限度は走行5千キロくらいまでと言われています。特にBandit250は常用回転数が高く、圧縮比も高いせいか劣化は早め。定期的にチェックしておきましょう。
そのほか、プラグコードやプラグキャップ、イグニッションコイルも意外と盲点になりやすい部分ですから、プラグを新しくしてもあまり調子が上がらないと言う人は点火系の総チェックをしてみてください。
まずタンクを降ろします。タンクを降ろさないまま交換作業をやってしまう手先の器用な人も中にはいるようですが、プラグキャップの脱着時にコードの接続部分に無理がかかりやすく接触不良になったり、レンチが入れにくかったり、プラグホール内部にゴミがあっても目視確認出来ないなど、メリットはほとんどないです。面倒がらずに必ず降ろしてから作業しましょう。
2番プラグの上にある四角い箱、セカンド・エアクリーナーを外しておき、そしてそれぞれのプラグキャップを抜きます。かたい時は少し前後左右に振りながらゆっくり引っぱります。
交換が終わり、プラグキャップを元に戻す段になって「あれっ?どれがどこに入ってたっけ?」と迷わないよう、抜く前にガムテープ等を貼ってマジックで番号を書いておきましょう。
並列4気筒エンジンのプラグやシリンダーは、進行方向に向かって左から1番,2番,3番,4番と呼びます。
左側のコイル(1次側の線がオレンジと白)からは1番と4番へ。
右側のコイル(1次側の線がオレンジと黒/黄)からは2番と3番です。
それぞれの行き先はプラグコードの長さでわかるでしょう。
ひとつのコイルから出ている2本のコードの点火タイミングは全く同じなので、互いの位置を入れ替えてもエンジンの動きに影響はないです。つまり1番と4番(もしくは2番と3番)の2本のプラグには同時に火花が飛んでいますが、その直前に混合気の吸入・圧縮を終えているシリンダーは2つのうち常にどちらかひとつなので、2ヶ所が同時に爆発する事はないのです。ちなみに全体では1、2、4、3の順で爆発します。
プラグを外す前に、ホースのついた空気入れで奥底にたまっているホコリを徹底的に吹き飛ばしておきましょう。汚れが残ったままプラグを抜くと、シリンダー内部に異物を落としてしまう危険があります。
まれにプラグの水抜き穴から虫が入り込み、巣を作っている事があります。ジガバチの類は泥や草、幼虫のエサとなる毛虫などを詰め込んでいたりしますから、もし見つけたらつまようじや空気入れで念入りに掃除しておきましょう。
正常な場合は、外から覗くと内部にあるプラグの座金部分が見えるはずです。
これは簡単ですね。レンチはなるべく心棒に手をそえ、まっすぐ回転するようにします。
ここはちょっと面倒です。レンチを差し込む場所が狭いですが、前側からなんとか入れられます。
少し回しただけで冷却水パイプに当たりますので、板メガネレンチをひっくり返してもう1度。時として冷却水パイプにレンチの柄が食い込むような状況になる事もありますが、多少の事なら大丈夫です。とにかく焦らず、ゆっくりやるのがコツ。
チマチマした作業がめんどくさい人は、ラジエータの固定を外してずらせば、前から余裕で手が入れられます。レンチの自由度も増すので楽ちん。ラジエータ上下にあるボルトを3つ外すだけです。
4つあるうちでいちばん狭く、ラジエータを外していてもやりにくい場所です。でも2番同様、ゆっくり焦らずやれば大丈夫。
ここが終わったらあとは4番プラグのみ。でもここは1番同様に簡単ですから、説明は不用でしょう。
プラグは各気筒ごとに焼け方やススのつき具合が違っている事もよくありますから、外したプラグにはマジックで何番のものだったかを書いておけば、その後の参考になります。
いわゆるプラグの焼けとは中心電極の根本にある絶縁体部分、つまり白い碍子(がいし)の色を見て判断しますが、なぜかこれをちゃんと書いてあるマニュアル本は少ないようで、そのせいか電極の先端(金属部分)の色だと思っている人も多いようです。プラグの番手(熱価)の差は、この絶縁体部分の奥行き(つまり表面積)を変える事によって作られています。
一般のマニュアル本に書いてあるプラグチェック法では、
などとありますが、正直なところBandit250でキツネ色に焼けたプラグなんて見た事ありません。そもそもキツネ色とは一説には昔の有鉛ガソリン時代の名残りであり、現代の無鉛ガソリンを使う市販車エンジンにおいては白から灰色がベストな焼けと言われています。
でも実際に外してみるとマニュアル通りの理想の色なんかそうそう出ないです。エンジン全開でサーキットをグルグル回るレーシングマシンならともかく、ツーリングや通勤、たまに峠を走るなどのごく日常的な使い方では信号待ちや低速走行だってしますから、エンジンもずっと一定で回るわけではないのでプラグの焼け方もそのシチュエーションごとにどんどん変化しているはず。だから今ポンと外したプラグが世間一般で言うところのベストな色に見えなくてもあまり気にしない事ですね。この辺は自分のバイクの調子を見ながら、どのあたりが一番いい感じなのかを日頃からチェックしてみてください。
作者のBandit250の場合、白く薄い茶色からほんのり黒っぽい灰色で、ツメでこすると落ちる黒いススが円筒部の周囲に微妙に付いているくらいで普通です。電極の角が丸く削れておらず、中心電極の長さも適正で、まっ黒い湿ったカスがベタベタついていなければ、まずまず合格でしょう。4つのプラグに極端な差がなければ大丈夫。
汚れの掃除は使い古しの歯ブラシで軽くパッパッとなぞる程度で。毛を短く切りそろえておくと腰が出て使いやすくなります。ワイヤーブラシでガシガシやると電極や絶縁体に無用の傷が入るのでダメです。
「外してみたらちょっと黒ずんでカブリ気味だったから、今度新しいプラグを買う時には番手を1つ下げてみようかな?」なんて話はよく聞きますが、いつ替えたかもわからないような、使いに使いまくったド中古プラグの先っちょを見たってあまりアテにはならないです。きちんと比較するならプラグを新しくした後でしばらく走ってから。もちろんプラグコードやコイルも健康である事が最低条件。普通なら標準プラグだけで季節に関わらずちゃんと走れるはずです。
組み付け時にはネジ部分やガスケットの座面(締めた時ヘッドに当たる平らな部分)に耐熱グリスを少し塗っておくと締め込みがスムーズになり、焼き付きも防止出来て次回外すとき楽になります。
ネジ穴に斜めに食い込ませないよう十分注意しながら、まず左に回してネジ山の開始位置をさぐり、それからゆっくり素手で回して締めます。不自然な固さを感じたら無理に回さずすぐ中止しましょう。エンジンヘッドのネジ山を痛めたら修理はとても面倒で高くつきます。
エンジンヘッドのネジ山を痛めないためにも、最初は必ず手で回して入れる事。いきなりレンチをかけて回し込むのは大ケガの元です。
写真の例はNGKのCR8Eですが、これは根本に潰れるタイプのガスケットを使っていますので、手で軽く回してグッと止まったところから、レンチでさらに1/4回転(90度)〜1/2回転(180度)まで回してガスケットをギュッと圧縮し、密閉性を高めます。このへんはプラグの種類(太さ)によっても違います。詳しい事はプラグの箱に書いてありますから、よく見ておいてください。
新品を使わず脱着するだけの場合はすでにガスケットは潰れていますから、そこまで回す必要はありません。NGKのサイトにも再利用の場合は1/12回転(30度)で止めるように指定されています。マニュアルでの締め付けトルク指定は100-120kg・cmですが、耐熱グリスを塗っているなら下限の100kg・cmで十分。車載レンチなら端に2本指をかけて「グッ」で止める感じ。(参考:締め付けトルクについて)
これを無理やり締め込もうと頑張ったあげくプラグをボッキリ折ってしまった人も中にはいるようですので、十分気を付けてください。
DENSOよりもNGKの方が造りが頑丈で、ネジ部分が焼き付いたり、誤って無理な力を加えた時でも破損しにくいと言われる事がありますが、作者自身は今までそういうのを実際に感じた事はないです。丈夫と言われるNGKでも締めすぎて折った人はいますし、両者とも適切な取り扱いをすれば、そう簡単に壊れる事はないでしょう。
メーカー指定には新品は1/2回転(数値はプラグのネジ径によって異なる)とありますが、そこまで回すのはちょっときついなと感じる事が時々あります。レンチで1/4〜1/3回転を越えて「ちょっと1/2まで回しきるのは怖いなあ」と感じたら無理にそれ以上回さなくていいと思います。ガスケットにも微妙な個体差があるようだし、プラグホール周囲の状態も均一ではない筈ですから、適当なところで止めましょう。指先から伝わってくる「怖い、これは何か妙だ」という人間的な感覚も、締め付けトルク等と同じく整備には重要な要素だと作者は考えます。
プラグキャップの接続部にはらせんを切った突針が中に仕込んであって、そこにプラグコードの芯線がからむように、ネジの要領で右回しにねじ込んであるだけですから、反対に左に回せば抜けてきます。イグニッションコイル側も全く同じ構造。この部分がヘタってくると、ちょっと引っぱっただけでスポンと抜ける事がありますので、プラグ交換時には必ずしっかりはまり込んでいるかチェックしましょう。
「新品のプラグに交換したばかりなのに、前より調子が悪くなった」という場合、交換時に無理に引っぱってしまい、突針からコードが抜けかけている可能性が大。Bandit250ではキャップの脱着時にコードが他の部分に干渉しやすく、慣れない人が作業した後よくあるケースです。
コードの芯線にサビが出ていたら、その部分だけ数ミリ切り捨ててねじ込めばいいです。もちろん突針もきれいに磨いておきます。ここの接触が少々悪くても(場合によっては完全に離れていても)それなりにプラグに点火してしまうので、日頃からエンジンの音や振動に気を配っていないと、不調には気付きにくいかもしれません。
コード自体が古くなっていると、固くなって弾力性もほとんどなくなるので、何度やり直してもまた抜けやすくなりますから、そういう場合はコードを全部新品に換えちゃいましょう。HOTナントカみたいな高価な社外品でなくても、バイク用品店に1メートル千円くらいで売っている汎用プラグコードで十分。うまくカットすればBandit250の4気筒分にピッタリ使えます。
「最近なんとなく発進の勢いがないな〜」「たまに1発か2発、ボロボロっと不発のような音がするな〜」なんて場合には、このプラグコード周辺をチェックしてみてください。接触不良はもとより、雨中走行の後で接続部に水がたまって絶縁不良となり不規則な漏電(リーク)を起こすのはよくある事です。
プラグキャップの接触を確認するために何度も脱着を繰り返しているうちに、摩擦で削れた芯線のカスが内部にたまって、青いサビの固まりになっている事があります。これも絶縁不良の元ですので、つまようじなどで掃除しておきましょう。コードとの接続具合はチェックしてもキャップの奥底まで気にする人はあまりいないと思います。ここはゴムカバーパーツを外した方がよく見えます。
プラグキャップをプラグに差し込む時は、すき間なくガチッと入る感じで、押しても引いても噛み込み部分がしっかり留まってガタつかないのが正常です。わずかにガタが出ている場合は接触部分のD型スプリングがヘタっている可能性がありますので、よくチェックしてください。これが原因で走行中3気筒化する事もあります。
プラグキャップの分解は一応可能ですが、ネジ部分を完全に元に戻すのはむつかしいので新品交換がベストでしょう。
外見上はまったく異常がなくても、しだいに劣化していくのがイグニッションコイル。ここは言ってみれば火花の元ですから、年数が経っているものはチェックした方がいいです。タイヤやチェーンみたいにすり減ったりしないからずっと使えると思うのは大きな間違い。コイルや半導体、電気コードにだって寿命があります。樹脂が劣化して微少な亀裂が発生し絶縁不良(漏電)になったり、ひどいのになると暗いところでエンジンをかけるとボウッと光って見える事もあるそうです。
劣化の度合いを見るには、テスターで抵抗値を測ってみる事。プラグキャップは外した状態で測ります。作者のBandit250で、製造されてからちょうど10年めに交換した時は、
このように2次側の抵抗値がかなり落ちて規定値から外れていました。ちなみに購入したばかりの新品コイルの抵抗値は1次側3.5Ω、2次側が15.37kΩと15.46kΩでした。
コイルを替えるときはコードやキャップもそれなりに劣化しているでしょうから、全部同時に新品交換する方がいいです。せっかくの新品も他のパーツが足を引っぱってしまうと満足な性能が出ません。純正コイルを買えば、コードはおまけでくっついてきます。
イグニッションコイルをフレームに取り付けている鉄の部分はコイルの鉄芯にあたるのですが、回路のどこにも電気的に繋がっていませんから、ここにアーシングしてもあまり意味はないです。
点火系のチェックにおいて、1次側のコード端子部分は重要な割には冷遇されているのはではないでしょうか。ここのコネクターが片方でも抜け落ちたり、コードがどこかで断線していると、当該プラグが2本まとめて完全に点火しなくなりエンジン始動はほぼ不可能になります。セルを回してもボロボロッとかかりそうでかからないとか、チョークまで引いてしつこく回していると時々「パン!」とマフラーから爆発音が出る場合、マフラーのエキパイ部分を手で軽くさわってみて(軽く叩くように触らないとヤケドします)、1と4または2と3の同一コイルのペアで冷たいままだったら、まずはここが怪しいです。
1次側は2つの平端子にクリップみたいなコネクターを差し込むようになっていますが、年式の古いものは透明カバーが変色して中の端子が見えないので、差し込んだつもりでも端子とカバーのすき間に引っかかるように入っているだけだったりします。この状態でも一応通電するので走り出せてしまいますが、振動などで接触点が外れた瞬間にエンストしたり、またすぐ復活するなど謎の動きを見せます。特に右側はハーネスの束が近くを通っており、ハンドルの動きにつられて微妙に前後動しますから、これにコネクターが押されて、抜けるまで行かなくとも「くの字」に曲がって接触不良になる事は十分あり得ます。ぜひこの1次側も時々はチェックしてみてください。