※文中の()内の数字記号は昭文社刊ツーリングマップル(2000-2001年度版)のページ/エリア番号です。
私も所属しているスズキBanditオーナーズクラブ「Bands!」の関西地区のみなさんが、 三重県の伊勢という所でキャンプをやるらしい・・。
何やら楽しそうな掲示板の書き込みについついつられ、 ろくに地図も見ないまま「まぁ、行けたら私もぜひ行きたいですね〜」なんて適当に吹いていた鹿児島県在住の私だけど、 どうした勢いでか1泊2日で参加する事になってしまった。
「ところで伊勢ってどの辺だっけ? 確か大阪の近くだったような気がするけどなァ」などとつぶやきながら、地図でキャンプ場の位置を確認してびっくり。大阪どころか紀伊半島を向こう側まで横断しなけりゃならない。すぐ目の前はもう名古屋ではないか!
この単純計算でも往復2千キロ以上はありそうな行程を、週末休みの土日だけで往復する事になる。ライダー(つまり私)の体力ももちろんだけれど、 我が10年落ちの愛車Bandit250が耐えられるかどうか・・。
とにかく、万全を期して挑戦あるのみ!
といっても特別な事は何もしない。エンジンオイルやブレーキフルード、クーラントのチェックに始まり、タイヤの空気圧やチェーンの張りなど、いつもやっている事を普通にやるだけ。私の経験からしても、こういう大イベントの前に妙に張り切って日頃やり慣れない事を色気出してやってしまうと、必ずそこからボロが出る。
荷造りは早めにすませ、金曜の朝にはもうバイクにくくりつけておく。片道1千2百キロという距離から逆算した場合、出発は金曜深夜の0時前後にならざるをえない。といって寝ずに出るわけにもいかないから、仕事から帰ったらすぐに就寝体勢にもっていけるよう全ての準備を完了させておく必要があるのだ。長距離ツーリングの最大の敵は睡眠不足といっても過言ではない。走行中に危険なだけでなく、なによりやる気を失わす根源なのだ。旅先での行動その他に大きく影響するから、前日の睡眠は必ず充分にとっておく事が重要になる。
携行品は通常のキャンプ道具にくわえて、おみやげの焼酎やさつまあげなど。出来れば冷凍していきたいが、手頃な箱がない。次善の策として真空パックものを九州内のSAで購入する事にした。ツーリング用の地図「ツーリングマップル」はいつもの九州版にくわえて中国四国版、関西版と豪華3冊を携行。高速を進みながら、エリアごとにマップルを切り替えるのである。九州に住んでいると7番(九州)以外のマップルを使う機会はあまりないから、ちょっとワクワクする。
さて、準備はほぼ整った。金曜の仕事から帰ったのは午後5時半、食事と入浴をすませて、あとは夜中の出発にむけてただひたすら眠るのみ!・・のはずだったのだが、前日あたりからBanditのエンジンのフケがどうもいまいち・・このままでは気になって眠るどころではない。思い切ってタンクをはずし、いろいろ調べてみるが、どうもわからない。
時間はどんどん過ぎていき、夜の8時をまわったころにようやく原因判明。キャブレターのピストンを納めているキャップの負圧調整用ノズル部にOリングを入れ忘れていたのだ。以前Cさんにいただいた予備のキャブをばらしてOリングを取り出し、元通りに修復。あとはタンクを乗せ、エンジンを回して確認終了、油まみれの手を洗って布団にもぐり込んだ時、時計はすでに21時を指していた。
私の住む川内市の近辺には高速道路のインターがまだない。もっとも近傍の九州自動車道・横川ICでも東に50km走った山岳部にあり、早朝の時間帯でも約1時間を要する。
(九州P.69/4B)
午前0時すぎ、結局3時間ほどしか寝られなかった重い体をひきずるように顔を洗い、ウエアに着替える。 これからの長距離が心配だったのだが、バイクに跨りハンドルに手を伸ばすと、不思議と気にならなくなる。なんというのか、機械と体が一つになったような気分、というとカッコつけすぎのようだが、これも条件反射のようなものかもしれない。
午前0時半、家族に見送られ、晴れた夜空の下を一路、東へ。
(九州P.67/6H)
まずR267で九州有数の大河・川内川を遡上する形で進む。 約30分で宮之城町へ到達、市街地を横断する川内川にかかる橋の手前で右折、R504に入り、さらに東進。
ここからは山間のやや狭い1本道になる。薩摩町で県道50号に連絡、カートレースと桜並木で著名な丸岡公園を右手に見て、 下り坂の信号を左折すれば、横川インターは目の前だ。ちなみに自宅からここまで信号停止は3回のみ。北薩がいかにのどかな地域かおわかりだろう・・。
(九州P.69/4A)
さて、いよいよ高速の旅の始まりだ。横川インターに着くと、自動発券機の横になぜかおじさんが立っている。どちらまで?との問いに、(ここぞとばかりに)「ちょっと伊勢まで」などとはりきって答えるが、おじさんあまり動じない・・ちぇっ。
しかしながら「はんとけんごと(転ばないように)、気ぃつけて」と言ってくれた。有り難く思う。
このへんの高速道路は都市部と違って交通量はごく少なく、料金所ゲートはどこも1カ所しか開けてない。 走っていても、自分のバイクの前後に他の車はまったく見えない場合が多い。ちょっと先の「えびのjct」で分岐する宮崎道など、ヘタすれば終点宮崎まで誰にも会わない、なんて事もあるくらいだ。
高速券をタンクバッグにしまい込み、すこしゆっくりと、アクセルを開ける。 開ける、開ける・・タコメータは1万をこえ、エンジン振動が収まるあたり、夜風がここちよい。このまま走り続ければ、今日の夕方には 三重県の伊勢インターにたどり着くだろう。
栗野をすぎ、えびのjctを熊本方向に分岐すると、道は北上コースをとる。 えびのインターから人吉まではまだ新しい区間のため対面通行だ。6キロはある加久藤トンネルをこわごわ抜け、 熊本県に入るとやや気温が低く感じた。このあたりは霧がよく発生する事で有名だが、今日は幸運にも 晴れた夜空がさえわたっている。
人吉インターをすぎるとすぐ山江SAがあるが、川内からはガソリンを満タンで出発しているので、まだ余裕はある。 ここでは給油ストップはなし、次の八代インターをすぎてからの宮原SAで給油する事にした。この山江SAもついこの前までは、夜間の給油はやっていなかった。宮原より南はガソリンがなくなったらアウト、 だったのである。そのため宮原手前の下り線には、「この先宮原が最後の夜間GSです」と、でっかい黄色い看板が 輝いていたものだ。
ところでこの人吉インターから次の八代インターまでは実に38.5キロもの距離がある。 隣接したインター間でこれだけ離れている例はちょっと珍しい。少なくとも九州内では最長区間だと思う(※注1-1)。 この間23本ものトンネルが山間部を縫うように走っており、今でこそ2車線だが、開通当初は対面通行で、 夜間にバイクでクリアするのはかなり度胸が要ったものだ。
最長6、340mの肥後トンネルを筆頭に、いくつトンネルをくぐったか忘れかけた頃、八代の街の灯が見えてくる。この八代ICにもjctが追加され、ここから南に延びてゆく予定の南九州道と連結する事になる。いまのところ 1個目の八代南インターまでしか出来ていないが、そのうちわが川内市まで延びてゆくらしい。そして鹿児島方面へと つながり、そこからは東回りの高速があらたに伸びていくはずだ。といってもまだまだ先の話、あと数年間は鹿児島からの北上コースはこのままだろう。