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草千里09参戦記

ツーリングマップルのページ記号は2003年春以降に発売された新版を基準にしています。

2009年8月30日

会場設営

スタッフに漂う緊張感

当日の朝は、携帯にセットしておいた時刻よりも30分ほど早く目覚めた。テントの周囲はまだ暗く、起きている人の気配もない。草かげからしんしんと虫の声が流れてくるのみである。

ゆうべ朝食用にと買い込んでおいた高菜めしセットをぬるくなったウーロン茶で流し込むが早いか、テントを素早く撤収してBandit250に積み込む。しかしすぐ後ろのテントではまだ寝ている人もおり、枕元で250cc4気筒の甲高いエンジンを響かせるわけにはいかない。荷物満載で重くなったBandit250を上の道路までどうにか押し上げ、ごろごろと坂を下ってアスペクタをあとにした。会場設営の手間も考えると5時前には現場に着いておきたい。

南阿蘇の集落まで来ると、もうすでに参加者とおぼしきオートバイのグループがちらほらと見え始めていた。8月といえども阿蘇の朝夕はそれなりに冷え込むものだが、この週末はどういうわけか気温が高めで25度ほどもあったから、作者はライダージャケットを着ずにスタッフ用の半袖シャツだけで出てきていたため、背中にプリントされたスタッフロゴを見つけて話しかけてくるライダーも何人かいた。予想どおり、この調子だと参加者数は10年前の比ではなくなるだろう・・。

会場に到着したのは午前4時40分頃。スタッフ用の駐車枠にBandit250を停め、中央にある公衆トイレで用を足した後、すでに到着していたスタッフといっしょに会場設営に入った。10年前はこの会場内で許可も得ないまま夜明かしするグループが多かったので、お店等の迷惑にならぬよう今回は明確に会場内での前泊禁止をうたってあったのだが、それでも寝袋などを持ち込んで会場内の片隅で寝ている参加者が何組かあった。


受け付け用のトラック

やがて草千里09のタイトルや各種スポンサーのロゴを貼り込んだ大きなウイング車(受付ステージ用のトラック)が場内に入ってくると、気分は一気に盛り上がった。乗降ステップを組み立てる作業をしていると、10年前にもこのパネル組みやボルト締め作業を大勢でやった記憶が懐かしく思い返される。(※2)

各スポンサーロゴをあらかじめ張ってある発泡パネルが用意され、ガムテープを丸めて両面テープがわりにしてトラック荷台の内壁に貼り付ける。ところがパネルのサイズが大きすぎて収まらない。急きょカッターナイフで長さを1枚1枚切りそろえ、出来た順に左側からはめ込んでゆく。

途中、スポンサーのロゴに小さなスペルミスが見つかったらしく、担当者があわてて修正用のシールを貼っていた。こういうのを見ていると、基本アマチュアイベントではあるけど、運営資金の提供をしてもらっている以上、それなりの配慮は必要なのだなと思い知らされる。
(ちなみにトラック荷台に向かって左側約半分のパネルは作者が貼ったものだ)

設営をしながらふと顔を上げると、トラックの向こう側にカメラスタッフが集まってミーティングが始まっているのが見えた。開場時刻が迫り、各部署の責任者もテンパってきたのか、員数確認もろくにしないうちに通達をやりはじめたようだ。あわてて駆け寄り、説明を受ける。

まず参加者に、住所氏名などを記入したアンケート用紙を胸に掲げてもらい、指名手配の犯人よろしく顔や服装と一緒に撮影する。それに続いて本番のスナップ写真を2枚撮影。こうする事で後日編集作業のさい、写っているのがどこの誰かが確認しやすくなる。昨日まではアンケート用紙のみをアップで撮るという事になっていたが、それよりこっちの方が単純明快だろう。

撮影時の露出ミスやデータ消失に備えてサブカメラでも同じように撮り、都合1人の参加者に最低6枚ぶんのデータ領域を当てる。アンケート用紙には一連の受付番号を押印する手筈になっているから、もし住所氏名が読めなくてもこの番号さえわかれば、あとから書類をつきあわせて確認出来るという寸法。

そして撮影が終わったらアンケート用紙下段に撮影者の完了サインを入れ、本部で回収。写真集希望者には予約代金支払いと共に後日発送の手続きがとられる。


直前ミーティング

撮影フォーマットやサイズは各カメラによってまちまちだが、指標として3,200×2,400ピクセル前後のサイズで、低圧縮のJPEGデータとして撮影記録する事となった。写真集に掲載するのが最終目標だから画像データ自体は高精細であるに越した事はないが、あまり大きなサイズだと保存作業に時間をとられる。細かい調整が可能なRAWデータで撮影する案もあったものの、メーカー毎に仕様が異なるし、カメラによっては出力出来ないタイプもあるのでボツ。何よりこれもデータサイズが大きくなりすぎる。

データメディアの収受方法については前日からいろいろなアイデアが出たが、最終的に各カメラ担当の名前を書いた回収ケースを複数用意し、専門の担当者が撮影現場を飛び回って撮影済みのメモリーカードを拾って回る巡回営業スタイルをとる事になった。これなら本部との往復のために撮影を中断する事もない。

この日作者が持ち込んだメインのデジタル一眼はオリンパスE-520とズームレンズの組み合わせ。安価なキットレンズだが、小型軽量で作者の小さな手にもなじみ、全域で最短撮影距離が短めだから被写体に迫りやすい。常用レンズとして日頃から使い慣れているものだ。画質の点ではズームなしの単焦点レンズが有利だが、10年前の経験からすれば混雑する会場内では撮影距離が自由にとれないし、忙しくなればレンズ交換するヒマもないから、ズームは必須装備と言える。夜間撮影はまずないからF値もそれほど気にしなくていい。望遠能力はそれほど必要ないが、広角側の画角は35mmフィルムカメラ換算で最低でも28ミリは欲しいところ。

サブは同じくオリンパスのコンパクトデジタルμ1050SWで、強化改造したスリングで首からぶら下げる。小さいながらも画素数はメインとほぼ同じ10メガ級で、落下衝撃に耐える頑強さと、水中撮影すら可能な防水機能を持っているから、万が一メインカメラをぶつけたり、急な土砂降りに遭うなどして破損させたとしても、撮影自体を途切らせる事はまずないだろう。

ところで昨日の段階ではサブカメラは助手が担当する事になっていたが、まだ当日スタッフが来ていないため、作者を含む何人かのカメラマンは当分の間1人で撮影をやる事になった。もっともこれは準備段階から想定していた事なのでそれほど困りはしなかった。そもそもスタッフの人数が昨日とさほど変わっていないような気は、さっきからしていたのだ。

「当日スタッフが到着次第サポートに回しますから、それまでは1人でなんとかやってください」と言ってはくれたものの、あまりアテには出来ないだろう。

まあ、今さらここで何を言っても始まるまい。覚悟を決めて、ついに草千里09の幕開けである。


戦闘開始!

参加者の長蛇の列

予定の午前6時を少し回ったあたりで、いよいよ客入れとなった。誘導係の赤い灯に誘われ、オートバイの列がどんどん駐車場内に入ってくる。すでに受付の前にはアンケート用紙を手にしたライダーが長蛇の列を作っており、ここで受付をしたら、いよいよ我々撮影班の出番だ。

「撮影待ちの人はいませんかー? カメラはこっちでーす!」

撮影担当の目印として青いバンダナを頭に巻いたカメラマンたちの呼びかけがあちこちで飛ぶ。記念すべき最初の被写体となってくれたのは、なんと作者と同じ鹿児島県から来られた大先輩ライダー、しかも愛車はヤマハTDR125という激レアな2ストロークマシンだった。これではるばる草千里まで来るのは、いろいろ大変だった事だろう。

まずは撮影手順を手短かに説明し、アンケート用紙を胸に掲げてもらい、撮影。そしてサブでもう1枚。その次がいよいよ写真集掲載用の本番スナップだ。

「では2台のカメラで2枚ずつ撮りますので、ひとつカッコイイポーズでよろしく!」

言葉と同時にカメラをそれぞれ指さし、指でピースを作って2枚撮りをアピールする。何しろ10年に一回しかないシャッター・チャンス(参加者の立場からすれば被写体チャンスと言うべきか?)。お互いの意思疎通がきちんと出来ていないといい写真にはならない。露出だのアングルだのも大事だが、何よりもまずいい顔で写ってもらいたいと考え、撮影者のこちらもつねに大きな声と笑顔を絶やさないよう心がけた。

前回の草千里99の写真集を見ていると、せっかくのイベントなのに、なんだかむつかしい顔して写っている人がけっこういる。もっともこれは仕方のない事で、プロのモデルさんならともかく、至近距離からデッカイ一眼レフカメラで狙われたら、たいていの人は笑っているつもりでも無意識のうちにどんどん表情が固くなってくる。カメラに威圧されてしまうのだ。

このへんはカメラ趣味の人ならたぶんわかってもらえると思うが、こういった場合にはむしろシンプルなコンパクトカメラの方が警戒心も起こさず、ずっといい写真が撮れたりする。いくらこちらで「はい、チーズ!」と大声で叫んでもなかなか笑顔になってくれない人も中にはいるから、そんな場合はいったん撮ったと見せかけてシャッターボタンを押さずにおき、先方の力が抜けてリラックスした一瞬を撮影してしまうという、ちょっとずるいテクニックも使ってみた。もしかしたら写真集を見たあとで怒られるかもしれないが、こういう場での写真はとにかく自然な笑顔が一番いいに決まっているのだ。


並ぶオートバイ

時刻は午前9時をまわり、撮影枚数はメインとサブあわせて400枚を越えたあたり。経験上これから昼過ぎにかけてが一番混み合う時間帯となる。

今回の撮影場所は受付トラック周辺および東側(火口側)のみとし、順次入れ替えてゆく予定だったが、入場者数があまりに多く、それでは間に合わなくなってきた。急きょ本部側から指定以外の場所に行って撮ってくれと要請され、そちらに出向くとこれまたいっぱいの撮影待ちの群れで、どこが先頭なのかすらもわからない・・。

よって、こう叫ぶしかない。「いちばん長く待っている人、手を挙げてー!」

するとなぜかあちこちでバラバラに手が挙がったりする。中には待たされすぎて怒っている人もいる。さて困ったぞ・・。

「時間がかかっても撮影はちゃんとやりますから、とにかく列を作って順番を決めてください。そうでないと撮れないよ。
我々スタッフも誰が早く来たかなんていちいち見れないから、順番の確保は人任せにしないで、各自相談して!」

なんだか子供相手に社会ルールを諭しているような物言いで照れてしまうが、とにかくそうやって片付けてゆくしかない。中には本当に怒ってしまい、撮影もせず途中で帰ってしまう人もいたが、まあそれも選択肢のひとつだ。長い事待たされてイライラするのはわかるが、それは他の人だって同じだ。こういう状況でこそ人の資質がよく現れる。

もっとも順番も守れないような人は全体から見れば本当にごく少数で、たいていはブロックごとに自発的に列が出来ており、撮影班としてはすごくありがたかった。


周辺の大渋滞

作者を含めたほとんどのカメラスタッフは会場内にはりついて夢中で撮影していたので、駐車場前の道路脇が会場に入りきれなかった違法駐車のオートバイであふれかえり、とんでもない渋滞を引き起こしていた事など、その時は気付く余裕すらなかった。特に午前10時過ぎ頃はひどく、2時間、3時間待ってやっと入れたという人もいたようだ。混雑が予想される時間帯は事前にアナウンスされていたと思うが、遠くからの来場となると、たとえわかっていてもそう自由に時間帯をずらすわけにはいかないだろう。

我々撮影班はとにかく目の前の撮影待ちの列を片付ける事を最優先に動いていたが、いくら撮っても列が減る様子はない。さらに撮影中に別グループからの撮影依頼の割り込みが入ったりして、そこでまたモメる。しだいに本部からのメモリーカード回収も滞りがちになり、撮影済みのデータがたまる一方で危険な状態に。携帯で本部に催促をしてもどういうわけかイヤホンの音が割れて話が全く通じないし、ついイライラがつのってしまい、本部に駆け込んで「一体どうなってる!なんで手順どおり回収に来ないんだ?」と怒鳴ったりもした。

どうやらスタッフの人数が来場者に対して致命的に足りない状況で、本来ならば本部に詰めているはずの人まで撮影や誘導にかり出され、飛び回っているらしい。結局いつまでたっても当日スタッフはほとんど現れず、誘導係は気の遠くなるような大群衆を相手に少人数でかけずり回り、作者を含めた何人かのカメラマンも終日単独で撮影進行する羽目に・・。

だが、そんな気が滅入る話ばかりでもない。我々スタッフのあまりのアタフタ具合を見かねてか、特に約束もしていない一般参加者なのに、会場誘導のサポートを申し出てくれた人もいた。そしてオートバイつながりの知人や、作者が管理人をつとめるBanditオーナーズクラブ関係の人々から「頑張って!」と声をかけてもらったり、個人的にいろんな差し入れを頂いたりもした。それこそ10年近く会えていなかった旧友に偶然出くわしたのも、予想外のすごくうれしい出来事だった。だけども、こちらも忙しく動き回っていたので、みなさんにはロクな挨拶も出来ず、たいへん申し訳なく思っている。


受付トラック

(※2) 受付用のトラック

当日参加された人の中には「用紙にハンコを押して受付するだけなのに、なぜわざわざトラックの上でやるの?」と不思議に思った人もおられるだろう。実は草千里の駐車場は、立ち並ぶレストハウス群とは別の団体が管理しており、基本的に公共スペースという建前なので、大人数が集中する受付テーブルや大型の看板を固定設置出来なかったのだ。そこで裏技的に「駐車中のトラック」を利用したのである。

いっぽう撮影後のアンケート用紙回収や物品販売、スタッフ詰所などは、駐車場の一番東側にある観光レストラン・ニュー草千里さんのご協力をいただき、軒先をお借りしてテーブル類を設置出来た。ここなら駐車場内ではないので、先のような縛りはない。