ここ何年か、古いママチャリやもらい物のフォールディングバイクにばかり乗っていた作者ですが、ここに来てもう少しスポーツ性の高い車体に気持ちが指向しはじめ、もっと性能のいい自転車が欲しくなってきました。
実は作者は昭和の末から10年間あまりロードレーサーに夢中だった時期があって、既製・オーダーで何台か乗り継いだ経験があるので、それなりに見る目はあるつもりです。
経験上、走行性能を追求しすぎると逆に日常生活では非常に使いにくくなるという点も身にしみてわかっているので、必要以上に先鋭化されたレーサーの類は避けよう、と思いました。
そこで選んだのが、台湾の巨大自転車メーカーGIANT社が販売するESCAPE R3。ホイールサイズは700C(約27インチ)で、最近流行の自転車通勤に最適な街乗り味付けが施されたクロスバイクです。県庁所在地にある大型アウトドアショップのSPORTS DEPOにて購入。ライトやスタンドなどの付属品や防犯登録代を含めても5万円ちょっとでした。
ESCAPEシリーズには多様なグレードがあり、このR3は最も廉価なパーツ構成のモデル。しかしコストパフォーマンスは素晴らしく、最大約8気圧(一般的なママチャリは3気圧少々)の高圧に耐える28C・W/Oタイヤの付いた700Cエアロ軽合金リムと、前3速×後8速フリーハブのワイドギアを備えたホイールをラグレス溶接アルミフレームに組み込み、身長165センチの作者が選んだフレームサイズ430ミリのモデルで総重量たったの10.9キログラム。作者がロードレーサーに夢中だった昭和時代にこのレベルのクロモリ車を組もうとしたら、きっと20万以上はかかったでしょう。こんな代物をこの価格で、それもごく普通の量販店でバンバン売ってるなんて、いい時代になったものです。
重量やパーツのスペックこそ一昔前のロードレーサー並みですが、ジオメトリーは安定性を重視したもので、ホイールベースもやや長く、乗車ポジションもアップライトでゆったりしています。おまけに泥よけやキャリア取り付け用のダボ穴もしっかり装備してあり、日常生活での使用もちゃんと考えてあるのがクロスバイクのいい点です。
とは言え、曲がりなりにもスポーツ車なので、車重20キログラム前後の標準的なママチャリから乗り換えたら、最初は車体の軽さや俊敏な運動性に驚きますが、一週間も乗ったら慣れてしまいました。作者のようなリターンチャリダーにはうってつけの車種と言えるでしょう。
GIANT社は2008年頃を境にネット等での通信販売を一切やめてしまったので、車体はもちろん、補修用純正パーツも契約店舗での対面販売でしか(公式には)買えません。
ESCAPE R3の特徴はトップチューブ(いちばん上のパイプ)が斜めになっているスローピングフレームで、GIANTのお家芸とされています。この形状は昔にもありましたが、小サイズのみの特殊なスケルトンと捉えず、軽量化やフレーム剛性の確保など性能向上目的で一般モデルから上級レーサーまで広く採用した最初のメーカーがGIANTなんだそうです。
これに対してトップチューブが地面と水平になっているのがホリゾンタルフレームで、いかにもクラシックなスポーツ車っぽくてかっこよく、作者もどちらかというとホリゾンタルの方が好きです。でも国際基準である700Cサイズのホイールを使う場合、一般的な日本人(特に作者のような短足人間)の体格にあわせようとすると、どうしても無理な設計になってしまいがち。その点でスローピングフレームは自由度が高い構成であると言えます。
メインフレームはすべてアルミ合金製で、フロントフォークのみクロモリ(クローム・モリブデン鋼、つまりスチール製)です。ESCAPEシリーズではR2以上の上級グレードに限って軽量なカーボンファイバー製フォークが採用されていますが、レースでもやるならともかく、普段乗りでそこいら辺の駐輪場に停めたりするのに傷に弱いカーボン素材では不安がつきまとう事でしょう。これもESCAPE R3を選んだ理由のひとつです。むろんカーボンと較べると重いですが実用上は問題ありません。
サドルは見た目ボテッとしていてあまりスポーティな外観ではありませんが、クッション性がよく、かといって腰砕けも少ないバランスのいいタイプがついています。裏面にはVELO製を示す刻印があり、型番はVL3061とありました。
シートポストはKALLOY製のSP-380。なんとサスペンション機能つきという凝ったもので、初心者にありがちなお尻の痛さを低減してくれる親切さ。コスト的に厳しい普及グレードなのに、ちゃんとツボを押さえてくれているなあと感心します。
ポストを固定しているシートクランプはクイック式で、工具を使わず簡単に高さ調節が出来ますが、逆に駐車中にいたずらされやしないかちょっと心配。
シートポスト径は27.2ミリです。
シートポストをフレームから抜くと、下端にクッション効果の調節ネジがあります。サス機構との兼ね合い上、どうしても可動部分に微妙なガタが出ます。神経質な人にはちょっと気になる点かもしれません。
ハンドルステムは今や完全に主流となったアヘッドタイプで、フォークコラム径はオーバーサイズの28.6ミリ(1-1/8インチ)。
ハンドルバーはメーカー不明のアルミ合金製。中央クランプ部分の直径は25.4ミリ、末端のグリップ部分で22.2ミリ。
幅は580ミリとちょっと広め。フラットバーハンドルは乗り手の好みに合わせてカットする事も可能なので、これくらいあった方が選択肢は広がるでしょう。
左右のシフターはSRAM製の3.0シリーズのグリップ回転式。作者は流行のトリガー式よりも直感的に操作出来るこっちの方が好きです。
TEKTRO製のブレーキレバーはVブレーキ専用。レバー開度調整ネジは右側にしかありません。その代わり左側レバーにはかわいいベルが内蔵されており、法令による警音器装備義務をクリアしています。
自転車には警音ベルを装着するのが法的義務となっていますが、危険回避等やむを得ない場合にのみ使用すべきものであり、歩道上で歩行者をどかす目的でむやみにベルを鳴らすと歩行者妨害行為として処罰の対象になります。このあたりが少々微妙なニュアンスを含むせいか「とにかく鳴らす事自体が禁止だ」と解釈している人や、最初から付けていない人もいるなど、装備義務があるくせに、どうも大っぴらには使えない空気感があります。
だからと言って歩行者の背後からノロノロとついていくのもあまり現実的じゃないし、ヘタをすると痴漢やひったくり犯と間違えられるかもしれません。そこで咳払いをしたり、ブレーキレバーをパチパチ鳴らす等、ベルを使わず自転車の存在をアピールする方法を編み出すという、いささか本末転倒な事にもなります。ベルの代わりに声かけをするという人もいますが、背後から急に声をかけたら大抵の人はビクッとして横に飛びのきますし、作者も実際にそれをやって「なんでベルを鳴らさないの!怖いわね!」とオバチャンに怒られた事があります。
ある程度の距離をもってチリーンと軽く鳴らし、自転車の存在をアピールして通過を予告する程度なら、法的にも問題ないはず。さらに追い越しざまに「スイマセン、通りま〜す」と挨拶するなど、常識の範囲で迷惑をかけないようにすれば、限られたスペースの中でもお互いが安全かつ円滑に通行出来るはず。要は使い方だと思います。
クランクは4アームの軽合金製で、メーカー刻印はRPM。
チェーンリングは48-38-28Tの3枚構成。ボルトにて脱着可能ですが一番小さいインナー28Tはミドル38Tとカシメ固定されているため分離出来ません。
クランク長は作者の選択したXSサイズ(430ミリ)では165ミリ。これより大きいSサイズ以上を買うと170ミリにサイズアップされます。
付属するペダルは反射器付きの軽合金プレート式で実用上問題ないとは言え、かなり安っぽいオマケ的なもの。
クランク回転軸のBB(ボトムブラケット)は現在主流のシールドベアリング一体型で、シャフトも一般的なスクエアテーパー。
クランクと同じRPMの刻印があります。BB-7420というのはモデル名のよう。他の刻印からはハンガーネジ規格BC1.37×24T、シェル幅68ミリ、スピンドル軸長113ミリといった仕様が読み取れます。
リアスプロケットはシマノ製の8速ギアHYPER GLIDE HG CS-HG40-SW。各段の歯数は11-13-15-18-21-24-28-32Tとなっています。
リアディレーラー(後側変速機)はシフターと同じく米国メーカーのSRAM製の3.0シリーズで、構成パーツのほとんどが樹脂製の最廉価版。さすがに強度の必要なパンタグラフやアームの半分にはスチールパーツが入っています。
2つあるプーリーはカシメ固定されており分解整備が出来ません。ここは出来ればシマノあたりと交換したいところですが、シマノとSRAMでは1段当たりのワイヤー移動量が異なるため、ディレーラーとシフターの間に互換性がありません。つまり換える時はシフターも同時にシマノ製に換える必要があるのが少々厄介な点です。
一方、フロントディレーラー(前側変速機)はシマノ製のALIVIOという普及グレードがついています。フロント側はリアのようにきっちり1段ずつ変速操作するわけではないので、メーカーが異なってもさほど問題はありません。ワイヤーは下引きタイプ。
チェーンのサイズは6〜8速対応の1/2×3/32で、アウター側プレートにふくらみがある一見シマノ HG風のものですが、よく見るとKMCという刻印がしてあります。ノーマルのリンク数は110でした。
ハブはメーカー不明のスモールフランジで、軸受けは一般的なカップ&コーン式。オーバーロックナット寸法(OLD)は一般的なロードバイクと同じでフロント100ミリ、リア130ミリとなっています。
スポークは前後とも24本で、4本ずつまとまった変則的な張り方がされています。その割には特別ハイテンションというわけでもなく、普通のニップル回しで調整可能。
リムに貼られたステッカーによると、スポークの長さはフロントが288ミリ、リアはフリー側285ミリ、反フリー側287ミリ。線径は前後左右とも2ミリ(14番)で、バテッド(段差)なしのプレーンタイプ。磁石につかないところを見るとステンレス製のようです。
700CサイズのW/Oリムはやや嵩高のエアロ風で、SPINFORCE FOUR by SIXと派手なロゴシールが貼ってあるものの製造元は不明。ETRTOサイズは622-16。
純正装着のタイヤはMAXXIS製のDETONATOR(ワイヤービード仕様)でサイズは700×28C。
中のチューブには台湾のタイヤメーカーCHENG SHINのマークがありました。これはMAXXISの製造元でもあります。
ブレーキは前後ともTEKTRO製のVブレーキを装備。通常サイズよりやや短いショートタイプです。安っぽい仕上げの割には効きはなかなかのもので、ママチャリのつもりでレバーをギュッと握ったら一発でリアがロックしてしまいます。
ブレーキシューも同じくTEKTRO製で824 FOR ALLOY DINと刻印されています。
フロント側にのみALHONGA製のパワーモジュレーター(黒い筒のようなもの)が装着されています。これはワイヤーアウターとワイヤーガイドパイプの間に固めのスプリングをはさんでクッション効果を出しているもので、Vブレーキ特有の急激な初期制動力を緩和して安定性を確保する重要な役目があります。
スタンドは一般的なキック式サイドスタンド。ESCAPE R3には自立スタンドの設定がなかったので、店員さんに社外品を後付けしてもらいました。