ツーリングマップルのページ記号は2003年春以降に発売された新版を基準にしています。
今日、時間が出来たので、久々に佐多岬まで足をのばしてみた。クルマの荷室に愛用の折りたたみ式自転車を積んで。
昨年の地元紙の報道によれば、2005年8月にはロードパークの一部区間(第1ゲートから第2ゲートまで)が一般道化される手続きが終了する、となっていたので、1年近く経った今はもうとっくに普通の道になっているのだろうと思い、かの有名なチャリダーの天敵(?)であるロードパークを、カメラ片手に自転車でゆっくり走ってみるのも悪くない、と思いたった。
佐多岬ロードパーク 一部を町道に(南日本新聞ホームページ 2005年3月30日付より引用)
いわさきコーポレーション(鹿児島市)が休業方針を出していた自動車専用有料道路「佐多岬ロードパーク」(佐多町)について、佐多町は鹿児島県などから周辺の土地を取得し、同社と交換、一部を町道として維持管理する事が29日分かった。 県と町、同社が23日付で「譲渡等に係る確認書」を交わした。ロードパークの休業は回避され、引き続き通行出来る。同町によると、根占町と合併して31日に発足する南大隅町に解決を引き継ぎ、予算措置などを経て7,8月までには一連の手続きが終わる見通し。
(中略)
第2料金所から駐車場までの道路3キロと展望台までの遊歩道は、譲渡後も同社が管理する。
(後略・引用終わり)
だが結論から言えば、佐多岬ロードパークは何も変わっていなかった。つまり未だに全線が有料道路のままだったのである。
ツーリングマップル九州P.63佐多岬7-A 旧版P.86佐多岬6-A
第1ゲートの受付のおばちゃんに「まだ一般道になってないんでんすか?」と尋ねてみたが、
「とんでもない! ここは私有地で、有料道路ですよ。何かそういう話もあったようですけどね。もちろん自転車も禁止です。あなたもクルマで来られているなら、自転車じゃなくてクルマで入ったらいかが?」
と、さもそれが当然じゃないのと言わんばかりの物言いに、自宅から3時間以上、180キロ近くも走ってきた私は少々ムッとした。
「ああ、これじゃわざわざ来る値打ちはなかったみたいですね、では!」と、言わなくてもいい捨てぜりふを残して、クルマに自転車を積み込むが早いか、ザーッとUターンしてゲートを後にした。
まあ、実際のところ自転車でこの道を走る事にそこまで執着は持っていなかったのだが、ああいう言い方をされると何だか自分の趣味を頭ごなしに否定されたようで、とても気分がよくない。これが日本を自転車ではるばる南下して来た旅人だったら、どんなにか落胆する事だろう。こういう話は今までいろんな紀行文で読んではいても、実際に体験したのは初めて。ここが旅人の間で鬼門とささやかれている理由がとてもよくわかった。
だが、数キロ走ったところでふと思い直し、再びUターンして大泊に向かった。ただし今度は第1ゲートの左を抜け、キャンプ場の横から田尻へ抜ける一般道へと入ってゆく。
ロードパークの一般道化はまだ行われていないようだが、当事者間でそういう話し合いが昨年の夏にあったのは間違いない。実際のところ、現状はどうなっているんだろうか? さっきの受付のおばちゃんは言わば私有地側の人間なわけだが、周辺の地元の人にもちょっと聞いてみようと思ったのだ。そこで佐多岬に来たらいつも立ち寄る、第2ゲート直前の田尻集落にある本土最南端の角店にまた寄ってみる事にした。
ツーリングマップル九州P.63佐多岬7-A 旧版P.86佐多岬6-A
適当に缶ジュースとコアラのマーチ(作者は行動食としていつも愛用している)をレジに出しながら、店のおばちゃん相手になんとなくロードパークの話をしてみるが、まあ予想通り渋ーい表情が返ってきた。
「確かにそんな話があったけど、それっきり全然進んでないようだよ。それに最近はバス問題の方が気になるしねえ・・」
バス問題とは、これまたロードパーク経営母体の企業が運営しているバス路線網が、採算性の悪化を理由に、この佐多周辺を含む大隅半島全域から撤退する意向を示している事なのだ。
「あたしみたいな年寄りには、こっちの方が切実なんですよ」
鉄道のない大隅半島ではバスが重要な公共の交通手段で、特に自分でクルマやバイクを運転出来ないお年寄りには、日々の買い物や病院通いなどに無くてはならないものだ。それがいきなり廃止されると言うのだから困ってしまうだろう(企業側に言わせれば「いきなり」ではないそうだが・・)。例によって自治体との話し合いもいろいろなされているようだが、あまり上手くいっていないようだし、これから先どう転ぶかはまだわからない。
正直、この企業に対しては地元でもいろいろ批判が多い。先のロードパークやバス問題を始め、薩摩半島と連絡する山川〜根占フェリーもここの所有で、今でこそ期限付きで動いてはいるが、それまでは(現在も)地元自治体といろいろモメていた。バス問題でも奄美大島の路線で似たような寝耳に水の撤退騒ぎを起こした前例があるし(しかも撤退を直前で撤回、自治体が代替用にと用意していた別路線と無用の競合をするハメになった)、とにかく採算優先で地域住民の事など考えていないのでは、などという声も聞かれる。
だが今までこのような地域の足をこの企業グループがほぼ独力で支えて来た事は間違いなく、それに対して自治体や住民も「あって当然」のような甘えを持っていた事は否めない。佐多岬もかつては陸の孤島と言われ、誰も見向きもしない辺境だったのを、先代の経営者が開拓して観光地化に成功した、という歴史があるのだ。もっとも新婚旅行ブームの70年代以降、客足は遠のく一方で、今日みたいな平日ではほとんど来訪者もなく、ロードパークの先端にあるレストハウスや展望台も今や立入禁止で廃墟同然だ。
実際、ロードパークの現状がどうなっているかは地元でも全然ニュースにならないし、ネット上でも情報は驚くほど少ない(あっても古いものばかり)。同じ鹿児島県民である作者ですらほとんど聞かないのだから当然かもしれないが、少なくとも田尻まで一般道になってくれれば、今の狭苦しく急勾配な裏道をムリムリ通らなくてもよくなるから、地元の人だって心待ちにしているはず。自治体の力で傷んだ路面も修理可能になるだろう。
ロードパークは自転車も歩行者も通行禁止だが、唯一歩行者が大手を振って歩ける(走れる)イベントがある。毎年冬に行われる佐多岬マラソンがそれで、昨年でもう5回目を数え、最南端の道を自分の脚で走れる唯一の機会とあって、けっこうな人気との由。
昨今は何とかサプリやら内臓脂肪の付き具合がどうのと、やたらと健康を旗印にした製品がブームのようで、中でも自転車は手軽に始められて効果も高い運動法として注目されている。自転車にはほとんど無縁と思えるような一般雑誌にもやたらとマニアックな機種がズラリと紹介されていたり、実際にも高価な機種がどんどん売れているらしい。最新の情報に関しては、作者みたいな出戻りチャリダーより、お隣のごく普通の会社員のご主人の方がよっぽど詳しかったりする。このままサイクルスポーツの大ブームがやってくれば、商魂たくましい企業も何かイベントを企画するとか、通行禁止の現状をちょっと考え直して道路整備を考えるかもしれない。それとも企業側が諸問題をいつまでも中途半端な状態で放置しておくつもりなら、いっそバス路線とも合わせて福岡あたりの県外大企業をドーンと誘致してしまった方が先々いいのでは・・
などと、本土最南端の青い海から吹く風を受けながら自転車を漕ぎつつ、いろんな夢想にひたる私であった。
おしまい
2007年3月24日追記 今朝の地元テレビニュースで、佐多岬有料道路の廃止・無料化のための申請がようやく管理企業側から国へ提出された、と報じられた。ただし自転車や歩行者用の通行の可否や、遊歩道の整備などについては言及されなかった。
2007年4月26日追記 佐多岬ロードパークはこの日をもって廃止され、大泊の第1ゲートから田尻の第2ゲートまでの約6キロの区間は町道として南大隅町(旧佐多町)へ寄付された。これにより第1ゲートから道路終点の駐車場まで、全線に渡って無料化、自転車や徒歩での通行も自由に出来るようになった。ただし第2ゲートから先は時間制限あり。終点の駐車場から展望台への遊歩道は従来通り有料。
(参考・自転車漕いで佐多岬 2007年5月2日)
2012年10月30日追記 佐多岬ロードパークはこの日をもって全区間が南大隅町所有の一般町道となり、ごく普通の道として完全無料化された。