※文中にあるツーリングマップルの記号数字は2003年版以降のページ/エリア番号。旧版はそれ以前の版です。
時刻は朝7時前、道の駅田浦の駐車場はかなり明るくなっていた。朝から天気も上々、オイル交換をしたばかりのBandit250もすこぶる調子がよく、薩摩川内市からここまで約1時間半と、かなりいいペースで走って来れた。しかしまだ先は長い。
今日はこれから阿蘇を越え、大分県の直入町まで行く予定。年に1回開催されるカワサキ・コーヒーブレイクミーティングの日なのである。
ツーリングマップル九州P.42水俣1-I 旧版P.58水俣2-E
道の駅田浦でトイレ休憩をしようと駐車場から奥の方に歩いていったら、障碍者用駐車枠のすぐ横に、荷台やステップボードが荷物でいっぱいの原付スクーターが停めてあるのに気付いた。その積み上げ方たるや半端な量ではなく、それぞれの年期もかなり入っている。おそらく長距離ツーリングの途中なのだろう。
ちょっと興味がわいたので、ライダー氏を探してお話でも聞いてみようかなと思った矢先、聞き慣れないイントネーションが耳に入った。近くのベンチによりかかるように寝そべっている中年〜初老とも思えるくらいのオジサンが、地元の人を相手に早口で何やらまくし立てているのだ。やれ四国で国道何号線を走破したの、台風をいくつくぐり抜けてきただのと、旅の武勇伝をあまり脈絡なくブチ上げている。どうやらこの賑やかなオジサンがスクーターの主らしい。話を斜め聞きしながらも、ちょっと割り込む機会を逸してしまったので、先にトイレに入る事にした。
少し長めのプライベートタイムを終えて、居住まいを正して手を洗っていると、まだ話のペースは落ちてないようで、表でガヤガヤやっているのが聞こえる。話し相手のオジサンもちょっと迷惑そうというか、適当な相づちであまり真剣に聞かずに半分以上聞き流している風だし、ここで無理に私が割り込んでも、かえって相手をするのに疲れそうな気がしてきたので、このまま素通りして出発する事にした。
通りしなにふとスクーターの後ろからナンバーを見たところ、なんと小千谷市と書いてあるではないか! 昨年末の中越地震で大被害を被った新潟県の小千谷市、このオジサンはそこから原付に乗ってはるばる九州まで走ってきた事になる。こりゃすごいなぁ・・と感心した反面、地元はまだ復興作業で大変だろうに、こんな所でのんびりツーリングなんかしてる場合じゃないのでは?という気持ちにもならずにはいられなかった。今にして思えば果たして「ツーリング中」だったかどうか怪しい気もするのだが、あのオジサン、あれからどこまで走ったのだろうか・・?
熊本市からはR57を一直線に東へ進み、阿蘇山を横断するコースをとる。
ツーリングマップル九州P.92(拡大図)阿蘇山1-B 旧版P.40阿蘇3-B
この週末で桜もだいぶ咲き出しており、道脇に植えられた菜の花も朝日に黄色く輝いてまぶしいほどだ。さすがに阿蘇の内側まで来ると気温がやや下がるが、上空はよく晴れた青空で、先週来た時よりはずいぶん過ごしやすい。遠くの外輪山には白い雲がうっすらとかかっていて、日が昇るにつれて淡くなり、そのうちまるで山肌に溶けるようにして消えていく。時刻は午前9時前、そろそろ車も増え始める頃だが、週末はいつも渋滞するR57も赤水登山道入り口の分岐点を過ぎてしまえば、東向き方向に限ってはさほど詰まる事はない。ここから一気に県境を越え、大分の竹田市を目指す。
路肩に立ててある気温表示板には21度と表示されており、もう初夏並みの陽気だ・・とは少し言いすぎだろうが、先週の嵐のような阿蘇山を味わった後だけに、いっそう快適に感じられる。阿蘇駅から阿蘇山上への坊中入り口あたりを過ぎ、やまなみハイウェイへの入り口である県道11号の交差点を過ぎると、外輪山の東側越えにあたる滝室坂は目の前だ。
内側から外に出る場合は急峻な登りになるのがカルデラ地形の特徴だが、阿蘇の東から北側にかけては永年の侵食作用の影響でか、さほど急峻な壁というわけでもなく、南阿蘇ほどドラマチックな感じがしないのが少し残念なところ。しかし上り坂はそれなりにきつく、高地の苦手なBandit250にとってはやはり楽な道ではない。くねくねと曲がった滝室坂のワインディングを一気に登りきり、峠部分を越えたら大分県との県境まではもうじきだ。
ツーリングマップル九州P.91(拡大図)やまなみハイウェイ6-D 旧版P.40阿蘇2-D
ハンディGPSにメモリーしてある峠の座標マークが液晶スクリーン中央から西側に過ぎ、道の駅波野を左手に見送ると、コンクリート工場の高い塔が見えてくる。ここがちょうど大分と熊本の県境。いつもこの時期は寒い思いをしながら道の駅波野でトイレ休憩をするのが常だけど、今日はいつになく快適なので、このまま一気に高原の道を楽しみながら、中間地点の道の駅竹田まで走る事にした。
R57で竹田の市街地に入り、短めのトンネルをいくつか抜けると、トンネル出口の直後に大きめの交差点が現れる。ここを左折し、日田往還の古名で有名なR442を上がってゆくと、道の駅竹田はすぐそこだ。
ツーリングマップル九州P.26阿蘇2-J 旧版P.41竹田1-A
一応ここが待ち合わせ場所にしてあったのだが、どうも誰も来ていないようだ。時刻は午前9時半を過ぎており、10時までには会場のSPA直入(すぱ・なおいり)サーキットに着いておきたい。Bandit250に乗ったまま駐車場をグルリと回ってバイクがないのを確認し、そのまま再びR442に戻り、走り出した。
県道30号で長湯の温泉街を通り抜け、SPA直入サーキットに着いたのは午前10時少しすぎ。バイクメーカー・カワサキのイベントなので、他社製バイクのBandit250はコース外の駐車場に停めるが、会場内はともかく、前年に較べてこちらの来訪者台数はやや少ないように感じた。
ツーリングマップル九州P.19湯布院5-L 旧版P.33犬飼4-B
歩道を歩いてコース内に入り、カワサキユーザーでいっぱいの会場内に入ると、ますます気温が上がっていくようだ。受付をすませて記念品のマグカップとミニステッカーを受け取る。カップのデザインは昨年と同じで年号が入っていないタイプ。これなら同じデザインでいつまでも使えるからだろうが、2001年くらいまではちゃんと年号入りのカップを配布していたのだ。そのかわり今年からはステッカーのデザインが変わり、縦長から正方形に。較べてみるとナンバーに貼り付ける車検ステッカーと同じサイズのようだ。思えば1999年にカワサキKDX125SRを購入したのがきっかけで始めたKCBM参りも、早いものでもう連続6回目になる。
会場内をうろついていると、先週の大観峰に来ていた人が1人いて、私を見つけてくれた。革ジャンやGベストを粋に着こなすカワサキ野郎の間で、小汚い黄色のジャケットと赤いバンダナがよほど目立ったらしい。連れだってあちこち散策するうち、もう1人顔見知りが現れた。先週もお世話になったGSさんだが、横からペコリと挨拶をされたお連れのスマートな女性の顔は、どう記憶をひっくり返しても見覚えがない。あとでわかったのだが、数ヶ月後にGSさんの奥さんとなる方なのであった。いくら彼氏の趣味とは言え、こういうマニアックな集まりにタンデムシートに座って律儀について来るとは、なんと心の広い人だろう。もし私なら、Bandit250の固いシートで往復600kmもタンデムさせた日には、きっと途中で大喧嘩になるに違いない。
イベントのスケジュールも進み、恒例のジャンケン大会となった。みな特設舞台の前に集まり、まずキャンペーンギャルの自己紹介などを聞かされる。ジャンケンが始まる前に、いつも遠来賞(一番遠くから来た人)や、先輩賞(最年長の人)を表彰し、ちょっとした記念品が配られる。私は鹿児島からここ大分まで片道約300kmも走って来ているわけだが、はっきり言って同じ九州内ではとても遠来賞にはとどかない。名古屋や東京、東北から来た人もいたりするから呆れてしまう。毎年全国各地で開催されるKCBMの中で、ここSPA直入が一番早く開催されるため、あえて遠方から自走してくる熱心な人もいるのだ。今朝見かけた小千谷市ナンバーのスクーターオジサンをここに連れてきたら、あるいは遠来賞がゲット出来たかもしれない。
ここでちょっとスズキユーザーとしては気になる場面があった。この日の遠来賞はライダージャケットの似合う若い女性で、常連の参加者たちもどよめく程のロングランナー。それはともかく、司会者が「乗っているバイクは何?」と切り出したら、その女性は「いえ、あの・・某S社のです」と恥ずかしそうに言ったのだ。それを受けて司会者は、場を盛り上げるためだろう、「なんだい、そんなの乗ってちゃダメじゃないか!来年はカワサキ車で来てよ!」と(やや冗談めかして)言い放ったのだ。当の彼女も本当はカワサキユーザーなのだが、故障していてやむなく代車?のスズキ車で来ていたらしく、「次の機会にはそうします」などと返している。こうして書いてみても何て事ないやりとりだが、その場にいたスズキユーザーの私としては、やっぱり少々カンに障るものがあったのだ。
確かにこれはカワサキ主催のイベントだが、他メーカーのユーザーでも自由に参加出来る筈だし、メーカーをまたいで複数台所有している人だって珍しくはない。主催メーカーのバイクで来なかったからと言って、それがどうだと言うのだ!カワサキ車を手放して久しい私が今もこうやって毎年鹿児島から走って来るのも、会場の雰囲気がよかったり、地元の名物温泉に入ったり、イベントで知り合った人たちと再会出来るのが楽しみだからだ。そもそもスズキは今やカワサキと業務提携関係にあり、お互いの製品をOEM供給しあったり、共同開発をやるほどの密接な関係ではないか。実際、この会場にもカワサキの名を冠したスズキ製バイクが何台か停まっている。
もっとも、このイベントの司会役はカワサキ専門雑誌の編集長なので、立場上「S社のバイクもいいよね」なんて口が裂けても言えなかったろうが、その瞬間の会場の雰囲気が、なんだスズキか、カワサキ乗りじゃないのか、という少しイヤな空気に満ちていたのは間違いない。もし私がジャンケン大会で勝って舞台に上がっていても、これと同じ反応をされただろうか。これだけの規模の定例イベントは他のメーカーでは(少なくとも九州では)やってないし、それなりに楽しみでもあったのだけど、こういうケツの穴の狭さを見せられると、ちょっと来年以降は参加するべきかどうか・・なんて事まで考えてしまう、イジケ者の私であった。