以前、熊本県公式サイトの中にあった球磨川サイクリングロードの紹介ページには、次のような一文がありました。
このサイクリングロードは、平成5年1月に熊本県で策定しました「熊本県総合計画」にある、「相良ふれあい回廊整備計画」によるもので、川沿いルート(29km)と山沿いルート(25km)の2つのサイクリングメインルートと5つのサブルートで構成されています。
つまり川のそばを走るルートとは別にもうひとつ、山沿いルートというのが設定されていたのです。当時の紹介ページには詳細なPDFマップなども添付されていたのですが、近年のサイトリニューアルに伴い、現在(2017年2月時点)は掲載されておらず、観光案内所で配布されるサイクリングロードMAPからも姿を消しました。
球磨川から離れて山間を走るこの道、実はごく普通の一般道で、川沿いルートのような自転車向けの舗装路や案内地図などの設備はほとんどありません。何らかの整備計画はあったものの、事実上消滅してしまったルートというわけです。
まあ、計画はしてみたものの諸般の事情により未着工のまま自然消滅・・なんてのは、地方のサイクリングロードにありがちな話ではあります。
川沿いルートはその大部分が平坦な舗装路で、車道とも分離され、自転車を走らせるには最高の道ですが、普段は人の往来がほとんどなく、誰もいない河川敷を一人で淡々とペダルを漕いでいると心細くなりがち。その点こちらの山沿いルートは生活道路そのもので、自販機やお店での補給も容易。道沿いの名跡にも近く、景色も変化に富んでいて退屈しません。
何よりも球磨地方の生の情景に間近で触れられる醍醐味がある、と作者は今も走りに行くたび感じます。今はもう公式なルートではなくなりましたが、ここに写真とともに記録しておく事とします。
GPS用緯経度の測地系はWGS84を使用。特に注釈がない限り作者が現地で実測した値です。
まずはメインルートと同じく人吉市街地から出発し、地図の案内どおり走ります。
国道219号を人吉クラフトパークから東に向かい、川沿い自転車道への分岐点では曲がらず、そのまま国道をまっすぐ湯前(ゆのまえ)方面に進みます。
そのまま国道沿いに約2.5キロほど行ったところに錦町一武(にしきまち・いちぶ)という信号交差点があるので、そこから県道43号に入ります。
しかし国道沿いは交通量がすごく多く、自転車のためのスペースも狭くて快適ではありません・・。
そこで、川沿い自転車道への分岐点の少し先にある五差路交差点から斜め方向の裏道に入れば、車通りの少ない住宅街を抜け、県道43号へ入る交差点に直接出られます。
2023年3月26日追記 信号待ち時間の長い五差路交差点が、シンプルな四差路交差点に改修されていました。よって裏道に入るには、ちょっと先の方から入ります。
この裏道は国道沿いよりも少しだけ上り坂が多めです。のんびり行きましょう。
錦町一武交差点に出たら、そのまま信号を直進して国道を渡り、県道43号に入ります。
この交差点にはコンビニがあるので、補給食などの買い出しに便利。この先の道沿いにもお店は幾つかありますが、どこも田舎の個人商店レベルなので、あまり贅沢な品揃えは期待出来ません。
北緯32度11分58.3秒 東経130度50分11.5秒 標高150m
県道43号は2020年1月に一武バイパスが開通したため、当初のマップにあった道は旧道化しています。
旧道には車止めが設置され、歩行者か自転車でないと入れないようになっています。
もっとも、どっち側の道を走っても2キロほど先で再び一本の道に合流しますから、あまり気にする必要はありません。
ここではオリジナルのマップに準拠して、旧道を進む事にします。
県道43号(旧道)に入って1キロ少々、スナックうぐいすの看板を過ぎると、上村(うえむら)方面に向かって右折を示す標識が現れます。
北緯32度12分03.3秒 東経130度50分53.9秒 標高171m
これに従い、前原食料品店のあるト字の交差点から右に入ります。
ちなみにここを曲がらずにまっすぐ行くと、また国道219号に戻ってしまいます。
2013年7月10日追記 前原食料品店はもう営業をやめてしまったようです。角にある昔風の郵便ポストはそのままですので、それを目印に。
しばらく行くと、丁字路に突き当たります。ここで一武バイパスと合流。
付近はまだ工事中なので、もしかするとまた構造が変わるかもしれません。
ゆるやかなアップダウンのある道を進みます。
行き交う車は少なく、車道走行でもそれほど気を使わずに走れると思います。
上りを越えたら、一気に視界が開けます。
遠くに広がる九州山地と広大な田園風景の中を、のんびりマイペースで。
錦町からあさぎり町に入ります。
あさぎり町の町境にあるウェルカム・モニュメントは、この辺りの他の町と違ってなぜか妙に気合いの入った造りなのが面白いですね。
道は少し登り基調。涼しげな竹林の中を走ります。
九州百名山にも名を連ねる白髪岳への登山道入り口。
GPSのデータを見る限り、このあたりがルート中の最高地点のようです。
北緯32度11分57秒 東経130度53分29秒 標高217m
林や栗畑を過ぎて下り基調になった頃、道路の左側に観光案内板と水洗式の公衆トイレがあります。
出発してから16キロ少々、田園風景から少しにぎやかな町並みになったあたりが上南(うえみなみ)地区で、学校やお店の他、お寺や神社が道沿いに点在しており、給水やトイレ休憩にはちょうどいい場所です。
北緯32度12分37.4秒 東経130度54分10.8秒 標高196m
カーブ手前にある有名な白髪神社。
道をはさんだ向かいには、この辺りでは比較的大きめの食料品店、かどしんストアがあります。
白髪神社の鳥居をくぐって中に入れば涼しい木陰と水量の豊富な手水場、そしてきれいに整備された男女別水洗トイレが利用出来ます。
神社を過ぎると左カーブ、そして短い急な下り坂。下りきったあたりの左側にもまた公衆トイレがあります。身障者用も備えた水洗式で、休憩用のベンチも備えられています。
ウォシュレットが使えるので、自転車用パンツを直履きしている人にはありがたいはず。
白髪神社から1キロほど先、大きめの交差点の角の高台に古風な社が建っています。木立に隠れているので、表の道からは気づきにくいかもしれません。
山上八幡神社本殿という名で、なんと室町時代から伝わる伝統と格式ある文化財だとか。近年の解体修復作業を地元球磨工業高校の建築家の生徒たちが手がけた事でも話題になりました。
周囲に広がる静かな田園風景。夏には蝉の声が響き、作者お気に入りのスポットです。
出発してから22キロ、道の右側に岡原霧島神社の鳥居が見えてきます。
北緯32度13分46.3秒 東経130度56分37.1秒 標高202m
広場の片隅にある男女別の水洗トイレが利用出来ます。飲み水を汲むには広場の向こうにある石段を上がる必要があります。
18段+36段の石段を上がると拝殿と手水場があります。
登り坂の途中であさぎり町の例のモニュメントが再び現れたら、ここから先は多良木町になります。
ちなみにこのモニュメント、国道筋の境界線にもほぼ同じものが建っています。
球磨川沿いには、昔から田園地帯を潤すための用水路があちこちにあります。この道沿いにある幸野溝(こうのみぞ)もそのひとつで、江戸時代に作られたものだとか。球磨川から引かれたきれいな水がとうとうと流れていて、夏場は涼しさを演出してくれます。
水面まで降りて行けるよう、戸別に階段が設けられています。かつてはここで水汲みや洗い物などをしていたのでしょう。
水路にそってどんどん進みます。近隣の農家のトラクターなどがのんびり行き来していますので注意です。
この辺りになると道幅もだんだん細くなってきて「ホントにこの道でいいの?」なんて思う事もしばしばですが、途中の分岐点にはちゃんと標識が立っていますので、見逃さない限り間違う事はないと思います。
出発してから27キロ、ここで最後の分岐を迎えます。県道43号の標識の矢印に従い、一時停止のある交差点を右に曲がると、いよいよ最後の湯前町へと入ってゆきます。
北緯32度15分50.1秒 東経130度58分15.4秒 標高206m
ここの神社の手水場でも水を汲む事が出来ます。
何カ所か道が分かれている所がありますが、おおむね道なり方向です。まんが美術館やゆのまえグリーンパレスなどの方向を示す矢印看板に従って進めばOK。
最後の直線路は下り基調で楽チンです。左手に湯前町役場が見えたら、ゴールまでもう一息。
国道219号交差点の一つ手前が駅への入り口になります。左折すると湯前駅のシンボル、レールウイングの縦長のアーチが見えてきます。
北緯32度16分49.9秒 東経130度58分57.2秒 標高199m
人吉市街地から約30キロ、ゴールの湯前駅に到着!
川沿いルートのように整備された自転車向けの道ではなく、いくらか上り下りもあるので、ママチャリ系や安物小径車では少々しんどいでしょう。4〜5万円以上のクロスバイク級スポーツサイクルなら、程よい達成感を得られる面白い道だと思います。行きは山沿いで頑張って帰りは平坦な川沿いでクールダウン、なんてチョイスも面白そうですね。