準備編で工具を作ったら、いよいよ本作業にかかります。
最初は馴れない部分もあると思いますから、時間に余裕をもって作業してください。大部分の人は屋外で作業する(せざるをえない?)事が多いでしょうから、天気予報もよく確認した上で予定を立てておきます。作業中は当然前輪も外していますから、組み立て終わるまでバイクは動かせません。
まずは水平で安定した場所にバイクを停め、センタースタンドでしっかり駐車させます。
そしてフロントホイールがあるうちに左右のフォークのトップキャップ、ハンドル、ブレーキキャリパ、ブリッジの固定ボルトなど、回すのに力をかける必要のあるボルトをほんの少しだけゆるめておきます。
そのあとエンジン下部をジャッキアップし、フロントホイールを外します。例によってホイール外しの手順は特に書きません。これを自力で完璧にやれる自信がないなら、最初からバイク屋さんに依頼した方が無難でしょう。
フォークを左右とも抜き出したら、トップキャップを外して中のオイルを排出します。筒状のスペーサーやワッシャ、スプリングも抜き取り、埃のつかないところにきちんと保管しておきます。
せっかくスプリングを外したのですから自由長を計っておきましょう。平らなところにゴロンと寝かせてメジャーで測ります。マニュアルではセパハン車の場合で302ミリを下回らなければよいとされていますが、一説によると長さが同じでも性能的に劣化している場合もあるらしいので、目安程度に考えた方がいいかもしれません。
「準備編」で作った塩ビパイプ製の特殊工具、中子の回り止めをフォーク内部に差し込み、奥にあるシリンダー(中子)の頭にはめ込みます。
フォークを上下逆にして、底にあるシリンダストッパボルトを8ミリの六角レンチで回して外します。この時塩ビ管が動かないよう、足でT字部分を踏んづけておきます。ここのボルトにはネジロック剤が使われていますので、断続的なショックを与えるように回した方がいいかもしれません。
シリンダストッパボルトが外れたら、インナーチューブとアウターチューブを分離します。
その前にオイルシールの上にあるストッパーリング(C状の針金)を外しておくのを絶対忘れないように!
そのまま引いても内部のスライドメタルとピストンが当たるので、すんなりとは抜けません。
そこでフォークを両手で抱え、カツン、カツンと断続的にショックを与えるようにしてインナーを引き抜き方向にぶつけ続ければ、5回か6回くらいでアウター上部に圧入されていたスライドメタルが抜け落ち、スポンと外れます。
無事抜けたら内部パーツを全部取り外し、まとめて管理しておきます。インナー先端部のピストンパーツは割りが入っていますが、ちょっと外しにくいです。
いちばん底には円筒状の樹脂製オイルロックピースがはまっています。ついアウター内部に置き忘れる事が多いので、しっかり確認しましょう。
各パーツはしっかり掃除します。樹脂部品に気を付けて、クリーナー出来れいに洗っておきましょう。
もし地面に落として砂をつけてしまったら徹底的に掃除。間違ってもそのまま組み付けたりしないように! ネジ山がつぶれて二度とバラせなくなるかもしれないですから・・。
メタル摺動部分の角を細かいヤスリで面取りするのがいいと言われた事がありますが、指で触ってもそれほど角が立っているように思えないので、まだやった事はありません。でも時間のある方は試してみてもいいかも。あまり削りすぎると表面加工を痛めますので注意。
インナーチューブの微細な傷もこの際完全除去しておきたいものです。使っているうち表面に出来た砂粒のような錆がシールを傷つけ、オイル漏れにつながる事もありますから。デコボコのチェックは指で直接触れてみる事。タバコの箱を覆っている薄い透明フィルムを指の腹に巻いてフィルム越しにすべらせると、微細な凹凸が強調されるのでわかりやすいです。オイルストーン(砥石)や細かい耐水ペーパー(最低でも1,000番以上)でならしておきましょう。しかしメッキがめくれ上がったり穴になっているようなのはいくら頑張って修正しても無駄。もはや寿命ですからインナーチューブごと交換する必要があります。
さて、あとは新しいシールやメタルをセットし、元通りに組み上げます。
オイルシリンダーとロックピースを組み付け、インナーチューブに差し込みます。
メタル類は表面に特殊なコーティング加工がしてありますので傷を入れないように注意。特に端っこをひっかけるとすぐビリッとめくれてきます。
インナーチューブに差し込む前に表面にフォークオイルを少し塗っておくとスムーズに入れられます。
分解時と同じように六角レンチと回り止め工具でオイルシリンダーを固定し、フォーク先端からシリンダストッパボルトを締めつけます。ボルトには緩み止めのためのグリスを薄く塗布し、リング状のガスケットを入れておくのを忘れないように。締め付けトルクは250-350kg・cmです。
参考:締め付けトルクについて
このシリンダストッパボルト、正規の組み立て手順ではネジロック剤を使いなさいとありますが、実は作者はまだ1回もやった事がないです。それでも漏れや緩みは今までなかったのであまり気にしていませんが、それじゃナンか気持ち悪いなぁ・・と思う人は、軽く塗ってみてもいいでしょう。注意すべきはネジロック剤の種類で、二度と外さないネジ用などというキケンなものも売っていますので、よく注意書きを読んでから買いましょう。
ここから打ち込み(圧入)の作業になります。「準備編」で買っておいた足場用パイプを用意。スライドメタルとオイルシールはそれぞれ別に、2回に分けて打ち込みをやります。
まずスライドメタルを入れ、その上からシールスペーサー(銀色の大きいワッシャー)を乗せます。スペーサーは角が滑らかな方が上向き。
そして足場パイプの内側とインナーチューブが直接触れあって傷がつかないよう、インナーチューブに布を巻きつけます。今回は救急箱の隅に転がっていた古い包帯を使いました。保護と言っても打ち込み時はほとんどパイプは上下動しませんから、この写真のようにまばらな巻き方でもOK。パイプとのすき間がせまいので、タオルなど厚手の生地ではパイプが入らなくなります。
巻き終わったら、その上から足場用パイプをゆっくり差し込みます。
足場用パイプをいっぱい下まで差し込み、シールスペーサーにピッタリ乗せたら準備OK。地面に敷いた角材の上に、10数センチ程度の高さからフォーク全体をドンと落とします。足場用パイプだけでも十分な重さがあるので、上からハンマーで叩かなくても、これだけでどんどん入っていきます。3回から5回も落とせば反発音が硬質な音に変わるので、それが奥まで押し込めた証拠。
角材の上とはいえ、重しをつけた状態で何度もドスンドスン落として大丈夫なの?という意見をいただきました。大切な愛車の足回りを思いやる、実にもっともな意見かと思います。でもちょっと想像してみてください。装備重量200キログラム近くの車体に成人男性を乗せ、デコボコ道を駆けめぐる時にフォーク先端にかかる衝撃力の凄まじさに較べたら、こんなシール打ち込みなどは屁でもないはずです。この程度ではまず壊れたりしません。
だからといって力まかせにガツンガツン叩き込んではだめ。フツーにやれば十分です。
次はいよいよオイルシール。こいつは思いのほかデリケートなので、まずインナーの上端に台所用ラップをかぶせてグリスを上から塗りつけ、段差を通過するときに傷が入るのを防ぎます。オイルシールの内側(リップ部分)にも、フォークに差し込む前にグリスを指先で念入りに塗り込んでおきましょう。
新品のオイルシールは直径がすこし小さくキツイですが、無理やり入れるとリップがめくれたり寿命が短くなってしまいますから、慎重に慎重に差し込みます。
オイルシールには向きがありますので絶対間違えないように。リップが富士山のようにすぼまっているのが上です。
そのまま奥まで入れたら、先ほどと同じく布を巻いて足場用パイプを差し込み、角材の上で打ち込みます。こちらも数回落とすだけで終わるはずです。シール本体の上面が内壁にあるストッパーリング用の溝と同じ高さまで沈めば、打ち込み完了。
打ち込み終わったら、溝にストッパーリングをはめ込みます。
そして最後に一番外側のダストシールをかぶせ、シール部分の交換作業は完了です。
このオイルシールが入っている部分には上からの雨水が入り込みやすく、しかも水の抜け道がないため、何年も手を付けていないフォークでは鉄製のストッパーリングが真っ赤に錆びていたりします。錆の粉がシールのすき間に入れば傷の原因にもなりますので、リングには前もって錆止めのグリスを塗り込めておき、時々はダストシールを開けて中の状態をチェックしておきましょう。
このあと上からフォークオイルを注入しますが、この段階ではスプリングはまだ入れずにインナーをいちばん下まで落とした最圧縮の状態でやります。フォークを直立させ、ゆっくりと泡立てないように注入。
この作業では専用の注射器のような特殊工具を使うよう指示される事が多いですが、あいにく作者はそんなの持ってません。しかし上の写真のようにスケール(物差し)の目盛りを合わせ、中を覗きながらスケールの端までゆっくり注入すれば、何の問題もなく油面合わせが出来ます。
指定オイルはスズキのG-10(他メーカーのオイルでも粘度10番なら特に問題ナシ)で、セパハン車の場合で左右570ccずつ必要とあります。しかしこの指定容量を入れると油面がオーバーしてしまいます・・。
多くの方々の意見や作者の経験から考えて、オイル容量はあくまで目安とし、油面高を優先させた方がいい結果が出るようです。それに油面で合わせれば容量も少なくて済み、左右入れても1リットル缶1本で十分足りるので便利です。セパハンモデルの場合の基準油面高はインナー先端から84ミリ。その他はサービスデータを参照してください。
いったん基準油面に達したら、インナーをゆっくり上下させて底にたまっている余分な空気をポコポコ抜いてやります。出てくる泡が消えるまで待ち、さらにオイルを注入して油面調整。これを2、3回繰り返し、気泡がおさまったら、注入作業は完了。
そしてインナーをいっぱいに伸ばして、スプリング、ワッシャー、スペーサーパイプの順にゆっくり入れます。インナーを伸ばさないままスプリングを放り込むとオイルが溢れ出ちゃいますので注意。
そしてきっちりトップキャップをしめて、フォークは完成。あとはフロントまわりを元通りに組み上げるだけです。
このスプリング、らせんの目の詰まった方と空疎な方がありますが、これをどっち向きで入れるかはマニュアルにも書かれていません。後期型Banditではスプリングの片方がテーパー状になっており、それを下側にするよう図示してありますが、この初期型Banditのスプリングにはそのような直径の差は見られません。
お店やネット上であちこち探し回っても「○○という理由により、こっちを上にすべきです」という明確な見解にはまだ出会えていません。事例数においては目の詰まった方を上にしている場合が若干多いような気がしますが、それも「新車の時からこうなっていたから」とか「理由は知らないがマニュアルにそう書いてある」という点を根拠にしている場合がほとんどのようです。
実際作者も機会あるごと何度かスプリングの向きをひっくり返してみましたが、市街地やツーリングレベルでは特に差は感じられませんでした。というわけで、これは作業される人のお好みでいいんじゃないでしょうか? とりあえず左右は同じにしといた方がいいでしょう。
2004年5月30日追記 車体やサスペンションに詳しいレースメカニックのむと〜さんに伺ったところ、
どっちを上にしても動き方に差は出ない筈です。あえて言うなら詰まった方が上の方が良いかな?スプリングを抜くときに付着するオイルが少なく、結果油面の狂いも少ないから。
との見解を戴きました。ありがとうございます。