夕方、いつもの河川敷を走っていた時の事です。道の脇の草ヤブに自転車が倒れているのに気付きました。そのあたりはいつも近くの公園や河原で子供達が遊んでいましたから、きっと彼らのだろうと思い、特に気には留めませんでした。
ところが3日たち4日たっても、その自転車はヤブの中に放置されたままです。さすがに気になったので引っぱり上げてみると、作者の乗ってる無印26インチなんかよりずっと上等な有名ブランドのシティサイクルでした。しかしサドルがシートポストごと紛失しており、後輪はパンク、前輪はバルブが抜き取られるなど、かなり悲惨な状態でした。
フレームに防犯登録の証であるオレンジ色のステッカーが貼ってあったので、手持ちの工具で応急修理をしてから近くの駐在所まで引っぱって行って調べてもらったところ、この自転車の盗難届は出ていないようでした。
そしてお巡りさんに、こう言われたのです。
「盗難届が出ていないので落とし物扱いになります。もし半年経っても持ち主が申し出て来なければ、この自転車はあなたのものになりますが、届けの書類を書かれますか?」
しかし防犯登録がしてあるからには、持ち主の連絡先はわかるはずです。お願いして警察の防犯登録データにある持ち主に連絡をとってもらったところ、やはり2ヶ月前に別の場所で盗まれていた盗難車だった事が判明。その後、無事に持ち主の元に返されました。
このように持ち主が警察に盗難届を出していないと、防犯登録がしてあっても警察側から持ち主に積極的に連絡する事はないようです。ちょっと不自然な気もしますが、こういった自転車盗難の件数はすごく多いと聞きますし、盗難届も出ていない案件にいちいち関わっている時間はない、というのが実情かもしれません。
自転車そのものだって、一部の高級スポーツ車を除けば低価格化が著しく、盗まれたからと言ってわざわざ届けを出しに行くほど大切に思っている人も最近は少ないようで、中途半端に壊された状態で返されてもむしろ始末に困る、なんて場合だってあるでしょう。
このシティサイクルの持ち主も、電話口では一応お礼を述べておられましたが、自ら防犯登録をしておきながら2ヶ月も放置していたわけで、おまけに主要パーツがあちこち紛失した状態で返され、果たして本当に喜んでくれていたのかはわかりません。届けた当事者としても、ちょっと複雑な心境でした。
よく勘違いされるのですが、防犯登録がしてあったからと言って、それを手がかりに警察があちこち探し回ってくれるわけではありません(そんな都合のいいシステムは車やオートバイにだってありませんよね)。あくまで所有者を明確にし、もしもの場合に特定しやすくするためのものです。
法律では幼児用を除くほぼすべての自転車の所有者に義務づけられていますが、罰則はありません。そもそも名称に反して防犯効果自体あまりないので、進んで貼りたがる人も少ないでしょう。しかし上に書いたとおり、乗り捨てられているのを誰かが見つけてくれたら連絡がつきやすくなりますし、警察に盗難届を出す時にも役立ちますから、なるべく加入しておいた方がいいと思います。
防犯登録の手続き自体は簡単で、自転車防犯登録所という表示をしてある自転車店に身分証明書持参で自転車を持ち込めばすぐやってくれます。
中には盗難車を登録させない目的で、自店で売ったものしか手続きをしない方針の店もありますので、事前に電話で確認した方がいいと思います。同じ理由でその自転車が自分のものであるという証明書(購入時の領収書や保証書など)の提示を求められるケースもあります。
料金は都道府県によって多少違いますが、おおむね500円前後のようです。
ちなみに防犯登録には有効期間があって、これも都道府県によって異なります。作者の地元の鹿児島県の場合は登録した日から12年間です(平成22年8月1日より、それまでの7年から12年に延長されました)。それを過ぎるとコンピュータ上からデータが削除されてしまいますので、再登録が必要になります。古いものは日付の確認をしておきましょう。
近年は有効期間が無期限、つまり一度登録したら更新は不要という地域もあります。うらやましい・・。
駅前やゴミ捨て場などに乗り捨てられている自転車には、この剥がしにくい防犯登録ステッカーを無理やりこすって剥がした形跡のあるものが時折見受けられます。たぶん盗んだ犯人が足がつくのをおそれて削ったのでしょう。
しかし防犯登録システムはステッカーの番号だけでなく、車体の色、タイプ、メーカー、フレームに打刻されている番号などをまとめて管理しているので、ステッカーだけ削ってもあまり意味はないです。むしろ盗品である事を宣伝しているようなもので、フレーム番号やその他の特徴を調べられたら発覚します。自転車ドロも立派な窃盗罪ですからね。
どう見ても捨ててあるようにしか見えない放置自転車でも、私物化して勝手に乗り回すと占有離脱物横領罪(刑法254条)となる可能性があり、罰金刑や最悪の場合懲役刑もあり得ます。
家の周辺の空き地や道ばたに持ち主不明の自転車が何日も雨ざらしになっていて、撤去してもまたいつのまにか別の自転車が放置されている・・なんて事はないでしょうか?
警察で聞いた話ですが、自転車泥棒の常習犯はたいてい自転車そのものに興味があるわけではなく、駅や学校など出かけた先で自転車を盗み、自宅近くまで乗ってきては乗り捨てる、つまり足代わりに犯行を重ねるケースがすごく多いんだそうです。
よって放置自転車が多い場所には、近くに泥棒の常習犯が住んでいる可能性がある、という事。自宅の防犯対策にはいっそう気をつけるべきでしょう。
そして防犯ステッカーが貼られた放置自転車を見つけたら、なるべく警察に連絡するようにしましょう。上記の作者の経験のように微妙な反応をされるケースもあるでしょうが、大切な愛車が盗まれて悲しんでいる人が一人でも救われるかもしれません。
本当の防犯対策は、やはり持ち主の心がけ次第と言えます。作者も中学生の頃に一度だけ盗難に遭った経験がありますが、たとえ安物の自転車でも、自分の愛車が忽然と消えてしまった時のやるせない気持ちは例えようがありません。普段何気なく乗っていた自転車がいかに便利で素晴らしい道具であったか、無くなってみて初めて身にしみるものです。
どんなにごっついワイヤーロックを仕掛けていても、100%安全になるとは言えません。しかしバランスを考えて工夫すれば、それなりの効果は発揮出来るはずです。例えば窃盗犯はロック解除するのに5分以上かかりそうな物件には手を出さない傾向が見られるそうで、標準的なワイヤーロックでも2箇所以上に同時に使えば、かなりの防犯効果があると言われています。人通りの多い目立つ場所に置くよう心がけるのもいいですね
クイックレリーズハブ装備のスポーツ車では、ホイールの盗難を防ぐためフレームから前輪と後輪に回し、さらに道路標識の鉄柱等に固定するためには長さ1.5メートル以上は欲しいところです。ただし路上の公共物にワイヤーを回して持ち去りを防ぐ手法(通称地球ロック)は、厳密には路上を占拠する行為と見なされ違法になるのですが、法律が愛車を守ってくれるわけでもないですし、背に腹はかえられません。最低限、通行の邪魔にならない場所で常識的かつスマートな施錠を心がけるべきでしょう。防犯タイプのクイックシャフトに交換しておくのも手です。
番号合わせ式のロックは必ず全ての桁をバラバラに動かすようにしましょう。いちいち合わせるのが面倒だからと、いつも端っこの1カ所しか回していない人がかなり多く、自転車泥棒もそれを知っていて犯行に利用しているんだそうです。