スポーツ車を買ったらまずやってみようと考えていたのが固定式ペダル。つまりペダルとシューズを最適な位置で結合し、効率のいいペダリングをしようというわけです。今は足首の操作だけで簡単に固定・解除の出来るビンディング式が主流ですが、専用シューズが必須になるので、まずは昔馴染みのクリップ&ストラップを試してみました。
本格スポーツ車においては、ペダルはユーザーの好みに合わせて別途選ぶのが通例なので、店舗に並んでいる時点では大抵の場合ペダルは付いていません。一方、クロスバイクのESCAPE R3はそこまでガチなスポーツ用途ではないので、とりあえず買ってすぐに乗れるよう、ほどほどのクラスのペダルを付けて販売されています。
作者がESCAPE R3を買った時に付いてきたのは、GIANT純正品と言う訳でもない、メーカー不明のアヤシイペダル。
しかしながら一応軽合金プレートを持ち、ストラップ用の穴もあり、反射器を外せばクリップもつけられそうでしたので、ペダルメーカーの老舗、MKS製のクリップとストラップを別途購入し、取り付けてみました。
ストラップをペダルに通す時、中で半回転〜1回転ひねるのは昔ながらの手法。ストラップのズレ防止のためと言われていますが、本当のところはよくわかりません。少なくともこれをやっている人はそれなりの年齢の方でしょう。
競技ならレーシングシューズの溝をペダルプレートに食い込ませ、ストラップでガッチリ締め上げるところですが、街乗りでは普通にスニーカーを差し込む程度で十分。この場合物理的に固定するというより、足とペダルの位置関係を意識せずとも常に最適に保ってくれる省力化のためのパーツなのです。これがあるとないとでは足の疲れ方がかなり違います。
ペダルをMKSのシルヴァンロードに交換してみました。
さすがに長い歴史を持つ名品だけあって、クリップとストラップを取り付けた姿がピタリと決まります。後方には蹴り返しのための突起があるので、装着時にペダルをクルッと回すのも簡単。
体にぴったりフィットさせ、かつ自転車の動力源となる重要なパーツなので、知り合いから県庁所在地にあるプロショップ坂之上サイクルを紹介してもらい、ご店主のアドバイスを受けつつ選びました。
結果、シマノ製のPD-A530という片面フラットタイプにしました。片側は普通の平面ペダルなので、専用シューズのない時でも気軽に乗れます。
シューズはちょっと悩みましたが、一般的なストラップ式のSH-MT31をチョイス。外見は普通のスニーカーかトレッキングシューズのようで、普段の街乗りでも抵抗なく使えます。
この二つはシマノのSPDと呼ばれるシステムで、固定のための金属パーツが靴底にほぼ完全に隠れるため、専用シューズを履いたままでの歩行も問題なく出来るので便利なのです(厳密にはちょっと違和感があります)。
日常的に車を運転する人ならおわかりでしょうが、夜間走行中の自転車は、乗っている本人が考えているよりもずっと目だたない存在なのです。
「いやいや自分は最新のLEDライトを点けているから大丈夫さ」なんてお思いでしょうが、それは大きな間違い。闇の中でチカチカ光っている赤い点は認識出来ても、混合交通のまっただ中でそれが一体何なのかを咄嗟に判断するのは意外とむつかしいものなのです。
夕方から早朝にかけて、日によっては一晩に200キロ以上も走る事のある代行運転業をやっていた作者の経験に照らして断言させていただくと、夜の路上において、ドライバーに自転車の存在を一番確実にアピールしてくれるのは、ペダルに付いている黄色い反射器なのです。それは、二つの光点が交互に上下する動きが目に入った瞬間、まさに反射的に「あそこに自転車がいる!」と、考えるよりも早くビジュアルなイメージが脳天にひらめくからです。ケツの辺りで点滅を繰り返すだけのLEDライトでは、絶対こうは行きません。さらに黄色い光は後部反射器に使われる赤色よりも目につきやすく、夜間運転で疲れたドライバーの目に対してもアピール効果が高いと感じます。
ほとんどの自転車に標準で装備されており、構造上必ず前後方向に向く点もいいです。たまに無灯火自転車で夜道を走り回る度胸満点な人がいますが、その中のかなりの数の人がペダル反射器のおかげで命拾いをしているはずです。これを考えた人にはノーベル賞をあげたいくらい。
前置きが長くなりましたが、つまりペダル反射器は必須装備であるというのが作者の見解です。ところがこのESCAPE R3に取り付けたSPDペダル、シマノ製PD-A530では別売りオプション扱いとなっていました。今回ようやくそれを入手出来たので、さっそく取り付けてみました。
ネット通販で購入したシマノ製のPD-A530専用リフレクターユニット、SM-PD61。黒い樹脂でモールドされた反射板と金属プレートが各4個ずつ、そして8本の皿ねじがビニール袋にまとめてあるだけのシンプルな包装で、取付説明書も入っていません。これで定価がなんと3千円。付属の反射器が本体価格の半分以上もするとは・・まあ安全には代えられないのでガマンです。
説明書こそありませんが、パーツを組み合わせていけばなんとなくわかります。ロック機構のある側に黒い反射器を置き、裏側から金属プレートを介して2本の皿ねじで固定。樹脂パーツに直接ねじ込むので、いいかげんに斜めに突っ込むと穴がくずれてダメになっちゃいますので、まっすぐ慎重に。各パーツには前後や左右の区別はなく同じ形状です。
ちなみに重さは片側セットで実測45グラムの追加となりました。
取り付け終えてビンディングシューズをはめ込んでみると、反射板が靴底や可動部に干渉する事もなく、いたって普通に使える点はさすが専用品。いっぽうフラット面ではプレートの存在を靴底にちょっと感じますが、慣れれば問題ないレベルでしょう。これで夜間走行時の安心感も増すというものです。
PD-A530を分解するにはシマノ純正の特殊工具TL-PD40が必要。千円もしませんので、自家メンテ派なら工具箱の隅に入れておいても損はないでしょう。
回すためのスパナは36ミリのサイズが必要。
ロックブッシュ(根本の黒い樹脂パーツ)のギザギザに特殊工具をはめ込み、スパナでゆっくり回します。
このロックブッシュは、ペダルをクランクから外す時とは逆で、右側ペダルが逆ネジになっています。
ゆるみ防止のために回し始めはかなりタイトで固くなっています。黒いパーツは樹脂なので乱暴に回すとネジ山が痛みますから、ゆっくりと慎重に回して引き抜きます。
回し終わってシャフトを抜くと、先端に10ミリと7ミリのナットがダブルナット方式で固定されているのが見えます。それを外せば一気に各パーツがバラバラになります。ナット部分は左右とも普通のネジなので、片方を固定しつつ左回しにゆるめればOK。
古いグリスや汚れをぬぐい取り、灯油やクリーナーで各パーツを洗浄します。
片側のペダルに使われている鋼球は12個×2箇所で24個。サイズは3/32インチ(約2.4ミリ)とかなり小さく、自転車用としては最小の部類ではないでしょうか。これに全体重をかけて毎日グイグイ踏んづけていたわけで、ちょっと信じられない気持ちです。うっかりなくさないよう注意しましょう。
シャフトの根本にゴムシールが入っているのを確認してから、黒いロックブッシュを差し込みます。
それからスペーサーの金属リングを入れます。斜めにカットされている側が外側になります。
金属リングの上に鋼球を仮乗せしますが、その前にぐるりとグリスを塗っておきます。
円筒型の玉受けパーツの細い溝にも前もってグリスを塗っておきます。
先ほどの金属リングの上に、グリスの粘着力を利用して小さな鋼球を並べてゆきます。全部で12個あります。
乗せたら、グリスを塗っておいた円筒パーツをかぶせます。鋼球がはみ出してこぼれないよう慎重に。
円筒型パーツは対称形で、決まった向きは特にないようです。
円筒パーツの中に黒い樹脂スペーサーを差し込みます。これも斜めにカットされている方が外側です。
そして先ほどと同じように玉受けの溝にグリスを塗り、鋼球を12個並べます。
並べ終わったら玉押しナットをねじ込みます。
鋼球の当たり調整はダブルナット方式で行いますが、ほんのちょっと回しただけで回転抵抗が大きく変わりますので、まずシャフトにペダルレンチをかませ、両足で挟み込んで動かないよう固定し、それを基準に調整すると早く確実に作業出来ます。
両手で10ミリと7ミリのスパナを使い、玉当たりを調整して固定します。
組み上がったら指で回して回転をチェックしますが、この時点でガタなくスムーズに回るよう調整すると、いざペダルを車体(クランク)に組み付けて足で踏むとわずかにガタが出る事が多いです。指で回した時にほんの少し抵抗があるくらいがベストですが、付けたり外したりを繰り返しながら実地で追い込んでゆくしかないです。
最終的にギリギリのポイントに持って行くと、どうしても若干の回転抵抗が残ってしまうのですが、店で売っている各社のペダルを回してみても、抵抗なくクルクル回るのはほぼないですし、実用上もこんなものでしょう。時間に余裕をもって、じっくりと取り組んでみて下さい。
走行中、左足側のペダルとシューズの連結が不意にすっぽ抜ける事が多くなりました。具体的には、足を真上に引っ張り上げると、ほぼ100%抜けてしまいます。
作者は標準仕様のSPDよりも脱着が容易になるマルチモードクリートをシューズに入れているので、足首をほんの少し斜めにひねるだけでスパッと簡単に抜けるようにはなっているのですが、クランクの回転と同じ向きの力を加えて抜けるような事は、これまでありませんでした。可動プレートのバネの締め込み調整をきつくしたり、注油をしても、ほとんど変化がありません。
一方の右足側では、そういう現象は起きません。試しにシューズを左右入れ替えてみても、やはり左ペダルのみが外れやすい状態。どうやらペダル自体に問題が起きているようです。
写真を撮って拡大してみると、クリートをくわえ込む可動プレートの角がやや丸くなっているように見えます。
新品の頃の写真と比較してみると一目瞭然。
信号待ちなどで一時停止する際には左足を地面に着く事が多いので、脱着回数も圧倒的に左側が多くなります。購入してから9年4ヶ月、とうとうその影響が現れてきたのでしょう。
ちょうど2年前にも、すっぽ抜けとまでは行きませんが、脱着がゆるすぎると感じた事があり、その時はシューズ裏側のクリートを新品に交換する事で感触が戻ったのですが・・。
パーツ構成からすればプレート部分のみの交換も可能なようですが、もう10年近く使ったペダルですし、ここらで気分一新をはかってみたいですね。
SPDペダルをシマノのPD-T400に交換しました。今度のは最初からリフレクターが付いており、しかも両面SPDです。
これまではスニーカーやサンダル履きでも気楽に乗れるようにと、片面がフラットなペダルを使っていましたが、クロスバイクに何年も乗るうち、出かける時はちゃんとウエアを着てSPDシューズも履くのが習慣となり、加えて脱着の容易なマルチモードクリートの効果もあって、路上で不測の事態が起きてもほぼ無意識のうちに足を外せるまでになりました。
それで実はかなり前から「もうフラペはなくてもいいかな?」と考えるようになりました。むしろ片面フラペだと靴底の感触でいちいち表か裏かの探りを入れる必要があって面倒だし、とりわけ脱着回数の多い市街地走行では結構なストレスにもなっていたのです。
その点、両面SPDなら表裏を考えずに済むし、プレートの磨耗速度も確率的に2分の1に抑えられて性能が長持ちするはずです。
ちなみに重量は、先代のPD-A530が全金属製で反射器パーツ込み実測468グラムだったのに対し、新しいPD-T400は外枠が樹脂製ながら少し重い実測516グラムでした。頑丈な金属製のSPD機構が両面にあるのが影響しているように思います。
近年シマノが市街地走行や初心者向けとして打ち出しているCLICK'R(クリッカー)という製品ラインのひとつで、従来のSPDペダルから金具の形状を変更し、より脱着しやすくなったモデルとされています(クリートは互換性あり)。
固定用の可動プレートをよく見ると、半月状の切り込みが先代のものより小さく、少ない動きで開くようになっており、プレートのヘリも斜めに面取りされ、装着時にクリートが滑り込みやすいよう工夫されているのがわかります。スプリングにも弱めのものが使われているとか。
その反面、激しいスポーツ走行には不向きである事がちゃんと明示されていて、取説には次のような一文があります。
「このペダルはレクリエーションを目的に設計されていますので、SPDペダルと比べてクリートのペダルへの装着、解除が容易になっています。競技での使用や激しい動きを伴うような使用をされるとクリートが外れて転倒をする可能性がありますので注意してください。」
金具の工夫もさることながら、クリッカーペダルの最大の特徴は、つま先側のキャッチ金具が斜めに飛び出していて(カタログ値で約12.5度)、シューズが引っかけやすくなっている点でしょう。取説ではPOP-UP機能と表記されています。
ケージ(黒い樹脂製の外枠)は可動するようになっており、しかも回転軸のあたりにスプリングが仕込んであるらしく、反発して元に戻ろうとします。
これのおかげで、グッと踏み込んで装着するとシューズの底とケージがほぼ平行になり、リリースするとまた元に戻ってキャッチ金具が斜めに飛び出す、という仕掛け。
実際にやってみると、従来品のように金具のありかを靴底の感触で探らなくてもあっさりとはめ込めるし、リリースする時もペダルから靴底を引き剥がすような動作をちょっと加えるだけで、スパッと一発で外れてくれます。
もっとも、作者はSPDペダルにすっかり慣れてしまっているので、純粋な評価となると難しい所ですが、これ位イージーなら固定式ペダル初心者でも馴染みやすいのでは、と思います。
クリッカーはちょっとした足首の動きで容易にリリース出来るがゆえにスポーツ走行には向かない、と取説にも書いてありましたが、試しに真上に飛び上がるように引っぱっても全然外れませんでした。段差越えの時に後輪をポンと浮かすのも簡単で(メーカーは「そういう事はするな」と言っていますが)、日常的によほど激しく頑張って走る人でない限り、これで十分だと思います。
欠点を挙げるとすれば、上でも書いた重さと、やはり四角くボテっとした見た目でしょうか。ESCAPE R3のようなお気楽クロスバイクならともかく、細身で流麗なロードバイクにはちょっと似合わない気がします・・。
ちなみにSPDシューズではない普通の靴でも乗ってみましたが・・靴底の異物感がゴリゴリで快適ではないですね。短時間ならいいですが、あまり長くは踏みたくない感じ。
一応クリッカーシリーズにも片面フラペ仕様が用意されています。
回転部分の構造は先代のPD-A530とほぼ同じなので、専用工具やオーバーホールの手順もそのまま応用出来るでしょう。