ドライブチェーンの注油・調整手順を書いてみます。
エンジンが発生させたパワーは最終的にここを通ってタイヤに伝えられます。バイクに詳しくない方でも、この細い金属チェーンにすさまじい力が連続してかかっている様は、容易に想像出来る事でしょう。
機械的な動力伝達を担う部分の中で唯一砂ボコリや風雨に晒される部分ですので、日頃のメンテはもとより、遠出や雨中走行の後は特に念入りに。
シールチェーンは自転車のチェーンとは構造が異なり、接続ピンの1個1個にゴム製Oリングが仕込まれていて、内部に封入されている専用グリスが漏れないようにしてあります(実際には封入と言うより、すき間に塗り込んであるというイメージ)。手軽な潤滑剤としてよく使われるCRC556はこのゴム類を劣化させ、中にあるグリスを洗い流してしまうので、シールチェーンには使ってはいけません。
作者も最初はこれを知らず、当時乗っていたバイク(400cc)のチェーンにCRC556をガンガン吹いていたら、半年くらいでグリス切れを起こしてチェーンが固くなり、部分的にくの字に固着したまま戻らなくなってしまった事がありました。CRC556は吹いた直後はいいけど、動くとすぐ飛散してしまい、持ちがよくないのも原因の一つです。
安定した場所にセンタースタンドで立てて、チェーンの汚れや古いオイル分をウエスでぬぐい取ります。時間があればクリーナースプレーや灯油を使って洗ってもいいですけど、チェーン掃除はこだわりだすとキリがないので、ほどほどに。
きれいになったらシールチェーン専用オイルスプレーを吹きつけますが、その前に、タイヤやホイールに油分が飛ばないよう段ボールなどでカバーします。どんなに慎重にやったつもりでも、なぜか必ずタイヤに白いしぶきがくっついているものです。
チェーンのコマの回転部分を狙って、横方向に移動させながらひとコマずつチョン、チョンとスプレーしていきます。チェーンをグルグル回しながら勢いよくブシューっとやっても、肝心の可動内部に浸透しにくいし、周囲に飛び散るオイルもかなりムダになって、まあロクな事はないです。全部やったって10分位で済みますから、面倒がらずにチョンチョンやった方がいい結果が出ます。継ぎ目のカシメ部分からスタートすれば、一周したのがわかりやすくていいです。
1周し終わったら、プレート横などについたムダなオイルをウエスで軽くふき取ります。たまにオイルで真っ白になったまま走っているバイクを見かけますが、あれでは逆にホコリを吸い寄せているようなもの。次回の注油時に汚れを拭き取るのも面倒ですし、余分なオイルは今のうちに除いておきましょう。
エンジンをかけた状態でギアを入れ、後輪を回転させながら注油作業をするのは危険ですので絶対やらない事!指がギアに食いちぎられてから後悔したって遅いですよ。
マニュアルによれば、センタースタンド時、チェーン中央の振り幅が25〜35ミリの範囲内となっています。チェーン中央とはスプロケット(ギア)どうしのまん中という事ですから、リアタイヤ前縁部からチェーンガードの前側のネジの真下あたりがおおむね「中央」になるようです。この部分を指で持ち上げてチェーンが動く幅をスケールで計り、基準値内に収まっているならOK。
作者の私感では下限の25ミリではちょっと張りすぎかなと思いますので、無理にいっぱいいっぱいで張っていなくても良いでしょう。チェーンを持ち上げた時にスイングアーム根本のバッファ(ゴム製のプロテクター)に軽くコツンと当たる程度であれば、だいたい適正のようです。もちろん基準値内に収まっていれば張り調整をやる必要はありません。日頃の使用状態やチェーンのグレードによっても調整時期はずいぶん違ってきます。
作者はいつも収納状態のセンタースタンドの足にチェーンが触れそうなくらい下がってきた頃を見計らって張るようにしています。
チェーンは使っているうちにだんだん伸びてきますが、これは別に金属が伸びるわけではなく、コマどうしを接続しているピンや穴の1つずつが摩耗してすき間が増え、チェーン全体が長くなるように見えるので「伸びる」と呼ばれるわけです。チェーンの構造についてはMy GSX-R:ドライブチェーンの交換とギア比の見直しに図入りでわかりやすく説明されています。
チェーンの伸びは全体が一様でない場合も多いので、張り具合をチェックする時は1ヶ所だけやって決めるのではなく、クルクルと順次回しながら、全体をまんべんなく見るようにしてください。場所によって上下の振れ幅が1センチ以上違っている事もあります。
張り調整作業はもちろんセンタースタンド状態で。
まず22ミリのメガネレンチで、後輪の左側にあるシャフトナットをゆるめます。普通ならこのままクルッとナットだけが回ってくれますが、場合によってはシャフトが供回りしてしまう事もありますから、その時は反対側のシャフトにもう1本メガネレンチ(オイルドレンプラグと同じ17ミリ)で止めをして回します。半回転〜1回転もゆるめれば十分でしょう。
シャフトがゆるんだら、スイングアームの後ろ端にあるアジャスターのナットを時計回しに締め込み、シャフトを後ろ側に移動させてチェーンを張ります。
片方だけ先にグイグイ回したらシャフトが斜めにかしいで動かなくなっちゃいますから、交互に回しましょう。もちろん引っ張る量は左右同じでなくてはいけませんから、回す回数も合わせます。
もし振り幅が25ミリ未満でピンピンに張っている場合は、ゆるめて基準値内にしておいてください。張りすぎのまま乗っていると走行中にチェーンがブチ切れて大変な事になります。
張りがだいたい決まったら、アジャスターの左右をきちんと合わせます。
調整するときは時々リアタイヤを後ろから軽く蹴って押し込み、アジャスターとアクスルシャフトにテンションがかかった状態を保ってください。でないとシャフトの通る穴の遊び分でズレが出て、アジャスターの左右をいくら念入りに合わせても、シャフトの位置が正確になりません。勢いあまってセンタースタンドを押し倒さないように。
一般のマニュアル本や取り説を読むと、アジャスターの目盛りを左右同じにしなさいと書いてありますが、このBanditは目盛りの間隔がやたら広いし、目盛りそのものもあまり正確そうには見えないです。それに左右の目盛りは同時に見られないですから、まず片方を見て「2つと半分だな」とか目に焼きつけておき、その記憶を頼りに反対側を合わせる・・と、これではイマイチ正確さに欠ける印象があります。
というわけで作者はいつも先端のボルト部分の長さをスケールで計って合わせています。これならミリ単位で正確な数値が出せます。今までずっとこの方法でやってきましたが、特に不具合は出ていないです。
アジャスターを合わせただけでは不安という心配症な方は、上下のチェーンラインも見てください。後ろから前へチェーンの列がまっすぐ伸びているかどうかを見極めます。ただこれは相当馴れないとわかりにくいかもしれません。自信がなければバイク屋さんで再確認して貰いましょう。
チェーンのグレードや使用状況によっても寿命の差はありますが、アジャスターのナットを一杯に回し切っても振り幅が基準値内に押さえられなくなったら、もはや使用限界を越えていますので即交換が必要でしょう。このほか、伸び(たるみ)具合のばらつきが各部毎に大きくなりすぎているのもダメ。
チェーンを替える時は前後のスプロケットも同時に交換するのが望ましいです。いっぱいに伸びるまで使いこんだチェーンなら、スプロケットも相応に摩耗して歯の間隔が広がっているはずですから、新品のチェーンとうまくフィットせず、走行中に異音を出したり、せっかく替えた新品チェーンの寿命までも短くしてしまうからです。
チェーン交換はバイク店に持ち込んでプロの手に任せる事をお薦めします、用品店に行けば簡単な工具が数千円で入手出来、手順も特別難しいものではないですが、安全かつスムーズに動くよう接続するにはある程度の経験が必要。
最後にもう一度チェーンの振り幅やアジャスターの緩みをチェックして、きちんと調整されていれば、後輪のシャフトナットをしっかり締め込みます。
後輪シャフトナットの締め付けトルクは550〜880kg・cm。写真では長さ約30センチのメガネレンチを使っていますから、端にかける力は計算上18.3〜29.3キログラムまでの範囲でOK。冬場ストーブに使う灯油を18リットル入りポリタンクに満タンに入れて貰ったときが15キログラムくらいですから、これを静かに持ち上げる時の力より気持ち強め・・といった感覚ですね。
緩むのが不安だからといって思いっきり押し込んではいけません。男の力と体重でエイヤッと締め込んだら1,000〜1,500kg・cmくらい軽く超えてしまいますから完全にオーバートルクです。
ネジ類は締め付けすぎると金属疲労によるねじれや破断のおそれもありますので、あくまで慎重にやりましょう。出来ればトルクレンチを使うのがいいですが、素手の加減だけでボルト類を締め付ける方法については締め付けトルクについても参考にしてください。
アクスルの締め込みが完了したら、両側のアジャスターのナットを脱落防止のために軽く(4分の1回転くらい)締め込んでおきます。
チェーンのメンテをしたら、日付やその時の走行距離をメモしておけば次のメンテやパーツ交換の判断をする材料になります。作者はいつもインナーフェンダーの所にチョークで適当に書き記しています。長くても数ヶ月くらい持てばいいので、これで十分。