冷却水(クーラント)の交換手順を書いてみます。
エンジンオイルと較べるとあまり重要性を感じていない人が多いかもしれませんが、水冷エンジンにとっては大事な部分です。エンジンの冷却はもちろん、エンジン内部の冷却水路のサビ止めという役目もありますので、長期間放っておくと防錆効果が落ちてサビが発生し、最悪の場合エンジンがダメになる事だってありえます。交換サイクルはだいたい1年から2年に1回。タンクを降ろす必要がありますので、プラグ交換などのついでにやってしまいましょう。
この作業はエンジンが熱いときは絶対やってはいけません。うっかりラジエータキャップを開けると、熱水が噴き出して大ヤケドをする事になります。必ずエンジンが冷たくなってから作業してください。
まずバイクをホコリの立たない安定した場所に置き、サイドスタンドをかけ、タンクを外しておきます。あとで空気抜きをするときに車体を揺らす必要があるので、センタースタンドではダメ。
エンジンの上にあるラジエータキャップの周りにウエスを敷き、キャップを押しながら回して外します。途中でもう1段階引っかかりがありますので、またぐっと押して回します。
そして車体の下にバットを用意します。
冷却水は車体左側の下にあるパイプを外して排出させます。
プラスドライバーでバンドをゆるめ、パイプを2本とも抜きます。ドバッと出てきますので地面にこぼさないように注意。サビなどの汚れが出てこないかもチェックしておいてください。グリーンの冷却水が出きるまでは、そう何分もかかりません。
このあと出来れば水道水で内部を洗いましょう。ホースを上の注入口に差し込み、ゆっくり水を出して内部を流します。 水道まで遠いのであれば無理にやらなくてもいいですが、ジョッキに1〜2リットル水を汲んで来て、それで上から流すだけでもいいです。
一部の地域では、季節によって水道水に微量の塩分が混ざる事があります。これは河川を上水道の水源としている地域で、雨の少ない時期に川の水量が減少して河口側から塩水が逆流し、取水口にまで達するのが原因。比重の大きい塩水が川底と水のすき間に割って入るようにして昇ってくる事から塩水楔(えんすいくさび)とも呼ばれます(学校の社会科で習いましたよね)。
作者の住む地域でも時折この現象が発生し、生活用水や工業用水に影響を与えています。これは人間の舌でもはっきりわかり、ひどい時はお茶の味が甘ったるく感じるほど。そういう時にはなるべく冷却水の交換は見合わせた方がいいかもしれませんね、大事なエンジンに塩水を入れてしまっては交換の意味がないですから。この現象が発生した場合は町の広報でも知らせてくれますので、そういった地域の方は注意しておいてください。
さて、水が出きったら外しておいたパイプを元に戻します。水や汚れはきちんとふき取ってからはめ込みましょう。ここは日頃あまり目が行かない場所なので、バンドがサビている事も多いです。その時は新しいのに替えましょう。
オイルジョッキにLLCと水道水を入れて、新しい冷却水を作ります。通常は半々(50:50)で混ぜますが、メーカや製品によって、また地域の気候によっても違ってくる事がありますから、詳しくはLLCの取り説を読んでください。
この間、抜き取った古い冷却水はいったん安全な場所にどかしておきます。
見た目はきれいな色ですが、人間や動植物にとってLLCはかなりキツイ毒物。間違っても手についた冷却水を舐めたりしないように! 口の中が激しく痺れて、数日間まともに食事が出来なかったという例があります。たとえ地面にでもうっかりこぼさないようにしてください。近所の犬猫や大事なペットが舐めでもしたら大変!
その他、道路上にこぼれると普通の水よりもはるかにスリップしやすいですから危ないです。これらの理由からサーキットの走行会などではLLCの使用が禁止されている場合がほとんどです。
冷却効果という点からすれば水だけでも問題なく使えますが、入れっぱなしにしておくと当然サビが出ますから、走った後は必ず排水してメンテナンスする必要があります。レーサーならともかく、一般のバイクには到底使えませんね。エンジン内部は裸の金属で、塗装はおろかサビ止めも一切されていませんから、放っておくとたちまちサビが発生して水路を塞いだり、最悪の場合エンジンがパーになります。リザーバータンクにチョイと補給する程度なら水道水のみでも平気ですが、それ以上の量を使う時は必ずLLCでちゃんとした冷却水を作りましょう。
ところで市販のLLCはたいてい緑色ですが、国内では一部トヨタ系の車輌で赤いLLCが使われています。この色は冷却水が漏れた時すぐにわかるよう、また路面の水たまりやエアコンの水しずくと間違わないようにわざとド派手に着色されているだけで、品質の差は特にありません。海外製品では黄色とか、中には色なしの透明なLLCもあるんだそうです。
新しい冷却水を注入口からゆっくり入れていきます。奥の方はちょっと細くなっていますから、焦って突っ込むとこぼれてしまいます。車体にこぼれたら水洗いしてください。そのまま置いておくとシミになる事があります。
口一杯まで入れたら、車体をゆっくり左右に動かしたり、前ブレーキをかけつつ前後に揺らして水路内部の空気を抜きます。そして減ったぶんを注入口から足します。マニュアルにはエンジン下部のエア抜きボルトをゆるめろとありますが、固くて場所的にも回しにくいのでやっていません。上からこうやってポコポコ抜くだけで十分イケます。
つぎ足しを2.3回繰り返したら、いったんキャップを締めます。そしてエンジンをかけて軽く2.3回空吹かししたあと、減った分を足して仕上げとし、注入は完了です。
ガソリンタンクは外してありますが、キャブ内にガソリンが残っているのでちょっと回すくらいなら大丈夫です。エンジンをかける時には燃料コックに入っていた負圧ホースをプラスドライバーか何かで塞ぐのをお忘れなく。
シート下にあるリザーバータンクの量もチェックしておきます。この中の冷却水も新しく換えたいところですが、メンドクサイので作者はいつもそのまま。見ていても量の増減がほとんどなく、冷却水路の循環にはあまり寄与していないと思うし・・でも気が向いたら灯油ポンプを使って抜く事もあります。
ところでこのリザーバータンク、いつも思うのですが中身の確認がやりにくい!わずかな確認窓を残して、ほぼ全面をどういうわけか真っ黒に塗りつぶしてあるので、外光が入らないから液面がほとんど見えないのです。もちろんフタを開ければ見えますが、それにはまずタンクを外す必要があるし・・今度機会があったら中に豆電球かLEDでも仕込んで、ボタンひとつでサッと確認出来るような照明を付けてみようかなと考えています。
先に書いたように今までリザーバータンクの中はほとんど掃除した事がなかったのですが、今回ちょっと時間があったのでタンクも外してみました。そしたら汚れが出るわ出るわ!茶色い砂みたいなのが底に溜まっていました。これはちょっと反省ですね、外しにくい部分ではあるけど(エアクリBOXを外さないとドライバーが入らない)、これからはちゃんとタンク側も掃除しようと思いました。
今回タンク内部をお風呂用洗剤のバスマジックリンで洗ったら、樹脂の透明度が若干増して、水位も見えやすくなった気がします。
さて、あとはタンクなどを元通りにして終わりです。
最後に古い冷却水の処分をしなくてはなりませんが、先に書いたように冷却水はかなりの毒物。そこらへんにザッと流して捨てるわけにはいきません。マニュアルによれば水道水で200倍に薄めて下水に流せとあり、作者も以前は水道の蛇口からジャージャー流しながら捨てていました。バイク屋さんで見ていても、似たような流し方をしているところは多いです。
しかし自然界ではほとんど分解されないLLCが周囲の環境に与える影響は大きいらしく、いま問題になっているそうです。この初期型Bandit250のマニュアルが書かれたのは平成元年の頃だし、今や水で多少薄めた程度で気軽に捨てていい時代ではないと考えます。下水道の終着点は川、そして海ですからね。
ここはちょっと手間ですが、オイル交換の廃油同様にGSに引き取って貰うか、専用の処理剤を使って処分するのがベターだと思います。専用の処理機にかけると水分とアルコールに分けられて、何かの燃料として再利用されるんだそうです。タウンページやネット検索でもいろいろ出てきますので、ご自宅の近くで探してみてください。