高価なロードレーサーと違い、ESCAPE R3のヘッドセットはその辺のシティサイクルとさほど変わらない、ごく普通のリテーナー式ボールベアリングを使ったタイプ。ここの調整がズレていたり、手入れをしないまま長い距離を乗っていると、大きな荷重が常時かかる下側のベアリングレース(鋼球が転がる部分)に打痕が発生する事があります。
走行中のステアリングはほとんど同じ直進位置に長時間あるため、路面からのショックがボールベアリングの鋼球を通じ、レースの同じ一点にかかり続けるために起きるもので、ひどくなるとハンドルが直進位置付近でカクッとひっかかったようになって、スムーズに回転しなくなります。作者のR3では、トータル8千キロくらい走ったあたりで微妙な段付きに気付きました。
上級ロードレーサーのヘッドセットは耐久性に優れる上等なベアリングを使っていたり、パーツの工作精度も段違いなのでこういう話はあまり聞きません。このへんが普及価格帯の宿命でしょう・・。
もっともステアリングの動きに多少段付きが出たところで走れなくなるわけじゃないし、傷が浅ければ玉の当たる箇所をズラして組んだり、荷重のかからない上側の玉押しと入れ替えたりすれば十分に使えるのですが、きっちり解消したいなら新品と交換するしかありません。
GIANT正規代理店で純正パーツに交換してもらうのが一番確実でしょうが(GIANTでは完成車やパーツのネット販売はしていない)、自分でさんざんいじった車体を修理に持ち込むのは、いささか気が引けるものです。
ネット通販で買うにしても、自転車のヘッドセットは独自規格が乱立しており、どのタイプを買えばいいのかよくわかりません。
まずGIANT総合カタログ2008年版のスペックシートから調べてみました。この年度のESCAPE R3に使われているヘッドセットはCANE CREEK セミカートリッジとあるだけで、規格やサイズ等の表記はありません。これが2012年のカタログではFSA セミカートリッジと変わっていますが、店先で現車を観察してみた限り、FSAというマーキング以外、直径や厚みはさほど変化していないように見えます。
さらに調べてみると、1-1/8インチサイズのセミカートリッジ式・FSA NO.11 AGY(HS-FS-005)というのが形状、価格帯ともに純正ヘッドに一番近いようです。純正とはメーカー名が異なりますが、同じパーツを複数のブランド名で販売するのは自転車業界ではよくある事です。
ここは現物を取り寄せて直接較べてみるのが一番確実。さっそくネット通販で購入してみました。
結果、NO.11 AGYの各パーツはESCAPE R3純正と同じ規格・寸法で、パーツ単位での交換も可能とわかりました。
唯一の違いは一番上のリング(メーカーのロゴが書かれているパーツ)の厚みで、純正が4.6ミリなのに対してNO.11 AGYは4.0ミリしかないため、このまま入れ替えて組むとフォークコラムの長さが余ってトップキャップがうまく締まらない可能性があります。よってここだけは純正を使うのがいいでしょう。
今回は痛んでいた下側の玉押しと、念のためリテーナーベアリング(鋼球がセットされている円形の金属枠)もいっしょに交換して、他のパーツはオリジナルのまま戻しました。フレームに圧入されているヘッドワン(玉受け)は交換するのに手間がかかりますが、指の爪でなぞってチェックしてみた限り、触ってわかるような打痕や虫食いは出来ていなかったので、これもそのまま継続使用としました。
このヘッドのベアリングパーツは上下とも同じものなので、今後ふたたび下側の玉押しパーツが虫食いを起こしても、もう一度交換するぶんは確保出来た事になります。
上記の玉押し交換では純正と同形のFSA NO.11 AGY(HS-FS-005)を使いましたが、BBBというメーカーのヘッドセット BHP-50でもESCAPE R3のフレームに適合する、というユーザーレビューをアマゾンで見かけました。
フォークコラム外径が28.6ミリ(1-1/8インチ)、いわゆるオーバーサイズのセミインテグラル型で、かつヘッドチューブ内径41.4ミリというのがESCAPE R3のヘッドの条件。これは市販車では珍しい仕様らしく、適合するものはAGYとこれの他にはほぼ見当たりません(一般には内径44ミリが多い)。価格はAGYよりちょっぴり高めですが、今風の外観でカスタム気分が味わえそうです。
前回ヘッドセットの一部を交換してから1年半くらいは特に不具合は出ませんでしたが、その後、増締めしても微妙なガタが出たり消えたりする症状が出始めていました。
ある日どうにも我慢出来なくなり、フォークを抜いてチェックしてみた所、リテーナーの鋼球の大部分が荒れてアバタ状になっており、ヘッドワンの当たり面もくっきりと溝が掘られたように削れてしまっていました。昨年の夏以来、大雨の中を何度も走ったのにもかかわらず、1年以上手入れを怠っていたのがよくなかったようです。
こうなるともはやヘッドワンの打ち替えを伴う全交換をするしかありません。難易度は少々高いですが、思いきってやってみる事にしました。
一般的なスチール製フレームなら素人の手でも割と気軽に打ち替えられるのですが、ESCAPE R3はアルミ製フレームなので、無理な力を加えるとヘッドパイプを変形させたり、最悪の場合ヒビを入れてしまう可能性もあります。ご自分でやる場合は十分注意しつつ、あくまで自己責任の元で作業して下さい。「お前の書いた通りやったらフレームがダメになったじゃないか!」と言われても、こちらでは責任はいっさい持てませんので悪しからず。不安な方はプロショップに依頼する事をお勧めします。
DIYの心得と注意
まず必要なのは、ヘッドワン(玉受け)をヘッドパイプから打ち抜くためのリムーバーと呼ばれる工具。ヘッドパイプに差し込んで、内側からワンの円周部分に均一に力を加え、まっすぐ打ち抜くためのものです。
これは適当な金属パイプを使えば、市販の専用工具とほぼ同じものがわりと簡単に自作出来ます。ホームセンターの電材品コーナーにE25(外径25.4ミリのネジなしパイプ)の電線管が売っていますから、これに金ノコで4分割の切れ込みを10数センチほど入れ、先端をペンチでもって花びらのように少し開けば、完成。ヘッドの穴からもぐり込ませる時に無用な傷をつけないよう、金ノコで切った部分のバリはヤスリ等できれいに仕上げておきます。
ただしこの電線管、お店ではほとんどの場合3.6メートル単位でしか売っていないので、軽トラでもなければ持って帰れないのが難点。工具として使うには30センチもあれば十分なのです。カットしてもらうサービスを利用するか、電気工事屋さんで切れっぱしを貰ってくる手もあります。
もうひとつは、新しいヘッドワンをヘッドパイプに圧入するための工具。これは長いボルトや全ネジとナット、ワッシャーがあれば作れます。きちんとした力を加えるため、ボルトの太さは10ミリ以上、長さはヘッドパイプから少し出るぶんが必要ですから25センチくらいあれば十分でしょう。
まずリムーバーを切れ込みが入っていない側からヘッド内に差し込みます。
4枚に開いた先端部分を少しずつ絞りながら、内部に落とし込みます。
リムーバーが中に収まったら、フレームの首の下あたりにショックを受け止めるための角材などを敷きます。
リムーバーの先端4カ所がヘッドワンに均一に接するように当てて、リムーバーの上の端をハンマーで軽くコツコツと叩きます。
まっすぐに数回叩けば、スポンと抜けてくれるはずです。
抜けたら上下をひっくり返して、もう一方も同じように打ち抜きます。
ヘッドパイプにある段差は端から約10ミリ。ヘッドワンの圧入部分はここまでは達していないようです。
抜いた面をきれいに掃除し、薄くグリスを塗って、新しいヘッドワンをセットします。最初からいきなり圧入工具をかませても絶対うまくいかないので、水平になるよう慎重に調整しながら、少しだけ食い込ませます。
当て木をした上からハンマーで軽くコツコツ叩いてもう少し入れ込み、位置決めをしておきます。
水平を確認したらボルト利用の圧入工具をセットし、上下のナットにスパナをはめ込んで、少しずつ回してパーツを圧入してゆきます。上下同時にやるよりも、片方ずつ別々にやった方が確実です。
ヘッドワンやフレームに接する部分には穴を開けた布を挟んでおけば傷が入りません。
ちょっとでも傾いたら中止し、軽く叩いて調整。戻せそうになかったら工具を外してパーツを完全に抜きとり、ゆっくりと深呼吸して、もう一度最初から。
とにかく焦ってはダメ。ヘッド部分が割れでもしたら、もうそのフレームは使い物になりません。この手の作業は、お天気のいい休日にゆっくり時間をかけてやるのがいいです。
上下とも隙間なくぴったりと圧入し終わったら、痛んでいないリテーナー類をセットして給脂したのちフォークを差し込み、ヘッドの調整をして、終わりです。
ヘッドセットの一番下、フォークコラムの根元にはまっているクラウンレース(クラウンコーン)の交換手順です。ESCAPE R3の純正ヘッドセットの場合、これがベアリングの鋼球に直接当たるわけではないので、打痕等の劣化は発生しませんが、長年走っているうち接触面が荒れる程度の磨耗は起きるようです。
本当ならばクラウンレースリムーバーやインストーラー等の専用工具を使うべき部分ですが、とりあえず手持ちの工具で何とかしたいと思います。
まず作業中に下に敷く板か角材、ハンマー、大型カッターナイフ、マイナスドライバー(先端が薄く強度のあるもの)、そして最後の打ち込み用に内径30ミリ少々の塩ビ管を長さ30センチほど用意します。
作者は倉庫の隅に転がっていた内径35ミリ弱の白い塩ビ管を使いましたが、何という規格のパイプかは不明でした。ネット検索してみると、水道管用として一般的なグレー色のVP30という規格のパイプが、内径31ミリで入手も容易なため、オーバーサイズコラムのレース圧入によく使われているようです。
クラウンレースはフォークの基部に隙間なくぴったりとはまっているので、大型のカッターナイフとハンマーを使い、少しずつ叩いて刃先を隙間に食い込ませます。力任せにガンガン叩き込んではダメ。軽くコツン、コツンと叩く程度にとどめます。
うまく刃先が入ったら、パンク修理の時にタイヤを剥がすのと同じ感覚で、位置をずらしながら一周ぶん同じ事をやって隙間を広げます。
一周やり終わったらマイナスドライバーに持ち替え、さらに少しずつ隙間を広げてゆきます。焦らず、慎重に。
レースがはまっているコラムの根元は一段太くなっていて、そこを越えたらスポンと抜け落ちます。
抜けた後はコラムの根元を綺麗に掃除してサビなども除去し、グリスを薄く塗っておきます。打ち込み時に砂粒1個でも挟まると奥まできちんと入らなくなりますので、掃除は念入りに。
新しいクラウンレースをはめ込み、おおむねまっすぐの位置に仮固定します。
フォークの下に板か角材を敷き、上から塩ビ管を差し込みます。
レースにぴったりと当てたら、塩ビ管の上からハンマーで叩いて打ち込みます。ここでも大きな力は必要なく、軽く叩く程度で十分。塩ビ管の円周をぐるっと回りながら、均一ににコツコツと叩きます。
叩く音が硬質に変わり、隙間なくぴったりとはめ込まれたら、作業終了です。
ESCAPE R3純正ヘッドセットのベアリングの鋼球(スチールボール)は上下各25個ずつで、リテーナーと呼ばれる円環状の金枠にはめ込まれています。この鋼球を拡大鏡でよく見ると、つるつるであるべき表面がアバタ状に荒れている事があります。
ここで「あ〜またヘッドセット丸ごと買わなきゃ・・」と考えるのは早計。鋼球は規格品なので、枠から一個ずつ抜いて新品と入れ替えればいいのです。
ESCAPE R3純正ヘッド(No.11 AGY)に使われている鋼球は直径1/8インチ=3.175ミリです。
用意したのはシマノが供給している鋼球セット。1/8インチサイズが50個入って千円でした。
町の工務店などで注文すれば、千円も出せば500個とか千個入りが買えますが、そこは自転車専門のシマノ、きっと品質がいいのでしょう・・。それに何百個もあったところでそう頻繁に使うものでもないし、工具箱の隅で何年も保管しているうちに錆びつかせてしまっては意味がありません。
リテーナーから古い鋼球を外し、きれいに掃除した上で新品の鋼球をはめ込みます。工具を使わなくてもツメの先で押せばポロポロ抜けてきます。
うっかりリテーナーを変形させてしまわないよう、力加減には要注意。
昔はヘッドセットやBBのリテーナーを取り外し、そのぶん鋼球の数を少し増やして仕込むバラ玉という改造をよくやっていました。リテーナーとの接触によって発生するごくわずかな回転抵抗をも無くしてしまおう、というわけ。あとリテーナーが割れたり腐食してダメになってしまった自転車にも裏技として使えます。
エンジン付きの車やオートバイでこれをやると、超高速回転で鋼球同士が激しくぶつかり合って逆効果になるらしいですが、自転車レベルの回転数や荷重なら特に問題ないでしょう。実際もっとも高速回転・高荷重にさらされるであろうホイールハブでもほとんどリテーナーは使われていません(※カートリッジ式は除く)。
もっとも、これをやった手間に見合うだけの効果があるかどうかは・・正直言ってよくわかりません。軽くなったという人もいますが、かえって悪くなるという意見も。日々の感覚に左右されがちな自転車では多分に心理的要素が大きい気がしますが、少なくとも目に見えた悪影響が出ないのは経験上確かです。グリスアップなどのメンテナンス作業がすごく面倒になる以外は。
玉数が増えた分、1個あたりの荷重が小さくなるので、路面からの衝撃がモロにかかる下側のヘッドワンでは、レース面の打痕発生を抑える効果があるかもしれません。ちなみにESCAPE R3純正ヘッド(No.11 AGY)でバラ玉をやると片側で9個増しの34個が必要になります。ぎゅうぎゅうに詰めれば35個入りますが、バラ玉をやる時は1個分かそれ以下の隙間を必ず空けておくのが昔からの習わし。隙間なく並んだ鋼球同士が逆回転で強く擦れ合うと抵抗が増えるからです。
とにかく何でもいいから自分の愛車に手を加えてみたい、という人は試しにどうぞ。
仕事帰りの夜間走行中、車道にあった大きめの段差にフロントタイヤをとられ、さらに勢いで縁石に斜めに乗り上げて思いっきり転んでしまいました。その夜はヘッドライトの電池が少なく暗めで、路面がよく見えなかったのもありますが、やはりそんな状況で作者がスピードを出しすぎ(時速25〜30キロは出ていたと思います)、安全意識が足りなかったのが最大の原因でしょう。
車体は右側に倒れ、ハンドルの端やリアディレーラー、フロントホイールの外周、ペダル、サドル等の突出した部分が削れて、作者自身の体も小石混じりのアスファルトでこすって右脚と右肘に裂傷を負うなど、けっこう派手にやってしまいました。これが昼間だったら周囲はちょっとした流血騒ぎになっていたでしょうが、幸い?深夜から早朝にかけての時間帯だったため、現場は作者以外には誰もいませんでした。
ケガはさて置き、ESCAPE R3のパーツやフレームには特に大きな破損はないように見えましたが、帰り道、後ろの変速がうまく上下しないのに気付きました。翌日、明るくなってから調べてみたらリアディレーラーハンガーのネジ穴部分に亀裂が入り、ディレーラー全体が微妙にかしいでグラグラになっていました。
ESCAPE R3のハンガーは交換式になっているので、さっそく近くのGIANT取扱店にパーツを注文。カタログ上の名称はディレイラーハンガーRE5XA、1つで千円ちょっとでした。いつか同様のトラブルが起きた時に備えて2つ購入。
壊れたハンガーを外し、接触部やネジ穴をきれいに掃除します。
そして新しいハンガーを組み付けたら、事故前の状態に見事復活。フレーム本体にはダメージは残っていなかったようでひと安心です。ディレーラーもいくらか傷ついたものの、その後問題なく動いてくれています。
GIANT社は2008年頃を境にネット等での通信販売を一切やめてしまったので、車体はもちろん、このような補修用純正パーツも契約店舗での対面販売でしか(公式には)買えません。
※何事にも抜け穴はあるようですが・・(笑)。