フロントフォークはバイクにはもちろんライダーにとっても重要なパーツ。路面の段差やコーナリング中の接地感など、操縦感覚の多くがここから伝わってきます。ですからちょっとしたガタや動きの悪さがストレスの元になりがち。
フロントフォークの中にはスプリングといっしょに、上下動を減衰させるためのフォークオイルという油が大量に入っています。この油面からフォーク上端のキャップまでは密閉された空気室となっていて、フォークの上下動によってつねに圧縮伸張を繰り返し、空気のバネとなってサスの動きに重要な役割を果たしています。サスペンションのセッティング方法でよく言われる油面高の調整とは、油量の調整でここの空気室の容積を変化させる事が目的。正確には空気量の調整と呼んでもいいです。
しかしここの空気は走行を重ねるうちにジワジワと抜けてくるので、その影響でフォーク自体の突っ張り感がなくなってきます。フォークオイルの劣化ともあわせて、いわゆる「サスがヘタる」状態になるわけで、いきなりドカンと発生するものではないだけに、ジワジワと気付かないまま乗りっぱなしという人も多いようです。
そこでこの空気量だけでも元に戻してやれば、本来のクッション感が多少は戻ってくるはず。本当はオーバーホールまでやりたいところですが、手間もかかるし、シールが破れかけてオイルがにじみ出してからでもいいかな?って事で、とりあえず応急的な手抜き処置といきましょう。
まずは水平で安定した場所にバイクを停め、サイドスタンドで駐車させます。
そして22ミリのメガネレンチで、左右のフォークのキャップを少しだけゆるめます。車載工具のレンチを使うときは付属のエクステンション(延長)パイプを使って長くしないとキツイです。
(ちなみに後期型では17ミリ。オイル交換のときのドレンボルトと同じサイズです)
キャップの六角部分は高さがあまりないうえ、アルミ製であまり固い材質ではないので、いいかげんな回し方ではずぐにポロッと外れて六角をナメてしまいがちです。レンチの上からキャップをまっすぐ押さえつけ、両手を使って慎重に回しましょう。確実性に欠けるオープンスパナやモンキーレンチも使わない方がいいです。ここは運転中つねに目の前にあるので傷つくと気分的にもよくないです。
左右ともクイっと回ったら、サイドスタンドをはらってセンタースタンドを立てます。サイドスタンドのままでは前輪に大きな荷重がかかるので、キャップを外したときにスプリング圧で中身がボヨ〜ンと飛び出してきます。
センタースタンドを立てたら、レンチの上から手のひらを添えるようにして、ゆっくり回していきます。
といってもそんなに気合いを入れて押さえなくてもいいです。スプリングもこの状態なら手のひらで押せば戻せる程度の強度ですから。
だいたい1センチくらい抜いたら外れますが、最後にポコンと軽く飛び出してきますので(上右の写真)、ちょっと構えておきましょう。キャップを両方とも外してしまうと一気にすっぽ抜けてつんのめってしまいますので、片側ずつ作業します。
もしサイドスタンドだけでキャップを外したら、この写真のようにビヨ〜ンと思いきり飛び出してきます。これを手の力だけで元通り収めるのはひと苦労ですし、フォークが伸びていない状態で締め込んでも肝心の空気量が少なくなってエア戻しになりませんから、必ずセンタースタンド状態でやりましょう。
センタースタンドのない後期型ではクルマ用ジャッキでクランクケース前側を持ち上げるようにすればいいです。と言っても高々と持ち上げる必要はなく、前輪の荷重が抜ける程度で大丈夫。
取り外したキャップはネジ山やOリングをきれいに掃除して、傷や汚れが残ってないかチェックします。キャップを取り外した時点で中の空気量は正常になっていますので、このまま元通り締め込めばOK。グリスを薄く塗って密閉性を高め、きちんと締めましょう。
取り外しの時と同じように、レンチの上から軽く押さえるようにしながら締め込んでいきます。出来ればいったん左回ししてネジ山の開始部分を探ってから締め込むのが安全。ここは一応150〜300kg・cmという締め付けトルクが指定されていますが、普通のレンチで普通に締めておけば大丈夫。力一杯締める必要はまったくありません。
締め方によってはOリングがインナーチューブとの摩擦でグニュ〜とはみ出してくる事もありますので、挟み潰したりしないように注意。もしキャップを地面に落とすなどしてネジ山を崩してしまったら、無理にねじ込まずに新品と交換しましょう。キャップなんて安いものですが、もしインナーチューブ側のネジ山をダメにしたらパーツだけで1万円以上の出費になります。
作業が終わったら、ちょっとそのへんを走ってみてください。段差を越える時やカーブ進入時のブレーキングなど、だいぶ印象が変わる事と思います。
キャップを外したとき、ついでにフォークの内部も覗いて、フォークオイルの色を観察してみましょう。新品の時は透明感のある赤色ですが、古くなるとドス黒い茶色に濁ってきます。この次はフォークオイルの交換もやれば、もっとよくなりますよ。